独特の世界観の作品で、熱狂的なファンを持つ映画監督のウェス・アンダーソン(1969-)。多くの映画賞に輝いた『グランド・ブダペスト・ホテル』は、特に知られています。
展覧会は「ウェス・アンダーソンが撮影した写真展」ではなく、「ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな風景」を撮影した写真展。撮影しているのは、一般のインスタグラマーという、ちょっと変わった趣向です。
寺田倉庫 G1ビル「ウェス・アンダーソンすぎる風景展 あなたのまわりは旅のヒントにあふれている」会場入口
人気インスタグラムコミュニティAWA(Accidentally Wes Anderson)は、アメリカの夫婦から始まりました。現実の世界で偶然見つけた「ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな風景」を写真に撮り、同名のインスタグラム(@accidentallywesanderson)にアップロード。これに賛同者が多く集まり、現在では172万人(展覧会開幕時)を超えるまでに成長しました。
その写真は、シンメトリー、強烈な模様、色とりどりのパステルカラーなどが特徴です。10のキーワードで展示されている写真の中から、いくつかご紹介します。
ZONE2「さぁ、アルバムを開こう」は、過去の体験を呼び起こすような情景。ジェットコースターの写真は、日本のナガシマスパーランド(三重県)です。
ZONE2「さぁ、アルバムを開こう」(右)《ナガシマスパーランド》
ZONE 3は「ターミナル駅」。文字どおり、駅の情景を並べたコーナーです。
青空に映える色鮮やかな駅は、セネガルの首都にあるダカール駅。一時は博物館に転用する計画がありましたが、ダカール・リージョナル・エクスプレス・トレインが港と空港を結んだため、再び駅として使用されるようになりました。
ZONE 3「ターミナル駅」《ダカール駅》
ZONE 4は「ホームとの隙間にご注意下さい」。旅に出るには乗り物が必要です。飛行機、列車、バス、自転車など、遠い場所に 連れて行ってくれる乗り物を集めたコーナーです。
ヴィッカース・ヴァイカウントは、コンコルド機の開発を監修したジョージ・エドワーズ卿が設計した輸送機。ロンドンのガトウィック空港で、飛び立つ直前に撮影されました。
ZONE 4「ホームとの隙間にご注意下さい」(右)《ヴィッカース・ヴァイカウント》
ZONE 5-3「星条旗」は、アメリカ合衆国の風景。ヨーロッパの影響を受けた建築物から、アメリカ的な美術潮流を代表するポップ・アートの要素が反映された場所まで、様々な写真が並びます。「カカオ」「ミルク」「シュガー」が大きな文字で書かれているのは、マリーズ・チョコレート工場の円筒形貯蔵タンクです。アメリカ、オハイオ州クリーブランド郊外のハイウェイ480号線の上にそびえ立ちます。
ZONE 5-3「星条旗」(左)《マリーズ・チョコレート》
ZONE 6は「チェックインをお願いします」。ひょっとしたら、ウェス・アンダーソン監督本人より有名かもしれない彼の映画『グランド・ブダペスト・ホテル』。ここでは、映画の世界観を再現したフロントも見どころです。
ZONE 6「チェックインをお願いします」
ZONE 9は「自然の中でのひととき」。望遠鏡を覗いた向こうにどんな風景が見えるのかを想像しながら、自然のイメージをたどっていきましょう。
カリフォルニア州のニュー・ポート・ビーチは、1900年代初期には荒涼とした砂浜でしたが、整備されて多くの観光客が押し寄せるようになりました。耐久性に優れ防水仕様の望遠鏡は、波止場の良いアクセントとなっています。
ZONE 9「自然の中でのひととき」《望遠鏡》
展覧会は東京に先駆けて韓国・ソウルで開催され、Z世代を中心に話題となり、25万人を動員しました。
展覧会は全て撮影も自由。ウェス・アンダーソンのファンはもちろん、建築やデザイン、映像など、幅広い分野に興味を持つ人にも楽しめる展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年4月20日 ]