実に不思議な形の黒い塊。いったい何をイメージして作られたのだろう。タイトルは「黒い花」。戦後京都で結成された前衛陶芸家集団「走泥社」の中心的なメンバーだった八木一夫の陶芸作品だ。
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八木一夫「黒い花」1975年頃
一般的にイメージする器の形を発展させた作品から、作者の思いを土で作り焼成した作品まで、現代のやきものの様々な「かたち」に焦点を当てた展覧会が開かれている。菊池寛実記念智美術館で開催中の「現代のやきもの、思考するかたち」だ。
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美術館外観
今回展示されているのは美術館の創設者菊池智が収集した現代陶芸のコレクションから31人の作家による51点の作品だ。
紹介されているのは物故者も含めていずれも戦後の陶芸界を代表する有名作家ばかり。土を用いた自由な造形作品の数々はまさに「思考するかたち」だ。
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展示室
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展示室
美術館の展示室は地下1階。まず目に飛び込んでくるのが2022年新たにコレクションに加わった木野智史の「颪」(おろし)。颪とは、山から吹き下ろす風のことだ。ろくろでひいた帯状の土をあらかじめ制作した型に載せて乾燥させて作られている。高度な技法もさることながら、風という空気の流れを陶で表現した意欲的な作品だ。
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木野智史「颪」 2019年
かたちの豊かさから私たち見るものに様々なイメージを思い起こさせる作品が今回の主役だ。今は亡き辻清明のなんともユーモラスな「信楽ステッキ」、階段で虹を表現した藤平伸の「虹」、階段の上に立つ小さな人物像が印象的だ。
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辻清明「信楽ステッキ」 1982年
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藤平伸「虹」1990年
鈴木治の「鳥像」は、一見どこから見たらよいのかわからない作品だが、鳥という私たちの普遍化したイメージを連想させる。
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鈴木治「鳥像」1981年
用とオブジェの境界をいくような作品にも注目したい。現代備前焼を代表する作家のひとり隠崎隆一の作品は花器、皿などのタイトルがついているが、その姿は従来の用を前提とした形態とは一線を画す。今回3点出展された作品の一つ「備前三足花器」。どこか舞う踊り子のようだ。
智美術館が隔年で開催する菊池ビエンナーレの大賞受賞作品 和田的の「表裏」はろくろでひいた磁器を乾燥させたあと削って形を作った実に美しい作品だ。実はこれも真ん中で蓋物のように上下で分割されるという。器の要素も持つ独特なフォルムに魅了される。
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隠崎隆一3点
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隠崎隆一「備前三足花器」1997年
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和田的「表裏」2017年
今回の展覧会の最後を飾るのは川上力三の階段と窓をモチーフにしたユニークな作品だ。京焼の陶工の元での修行を経て、1958年に作陶集団MAGMAを結成した川上が、50歳を過ぎてから取り組む「段シリーズ」。
作家によれば、窓は救いの暗示だという。それは現代社会とそこに生きる作者の心の中を映し出すイメージにほかならない。
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川上作品3点
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川上力三「虚塔」1990年
用を離れた土の造形が作り出す豊かな形、それは私たちに様々なことを想像させ、いつまで見ていても飽きない。焼き物に関心がある人はもちろんそうでない人も楽しめる展覧会だ。
[ 取材・撮影・文:小平信行 / 2023年1月13日 ]
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