千葉県の中央に位置する市原市。約3万5000年前から先人たちによって培われた貴重な歴史遺産が数多く残されており、中でも《「王賜」銘鉄剣》は国産最古の有銘鉄剣として、日本史上でも大変重要な資料といえます。
市原で出土した資料や、市内で伝えられてきた資料などを展示する「I’Museum Center(市原歴史博物館)」が誕生。2022年月11月20日(日)にオープンしました。
「I’Museum Center(市原歴史博物館)」外観
新しく誕生した博物館は、旧埋蔵文化財調査センターを増築・改修したものです。市民ひとりひとりが「わたし」の博物館と感じられるように、「いちはら」の頭文字と「私」の意味を持つ「I」で、「I’Museum Center」と命名されました。
館内に入ると、市原市の大きなフィールドマップが目に入ります。市原市では史跡などの歴史遺産が広がる市内全域をフィールドミュージアム(屋根のない博物館)と位置付けており、市内20地区の見学コースを設定しています。
エントランス 手前は市原市のフィールドマップ
受付に向かって左手が、常設展示室です。「自然環境への適応」「フサの原像」「国府は市原郡にあり」「民衆のちから」「農・漁村から工業都市へ」「くらしの姿と生活道具」という6つのテーマに沿って、時代順にさまざまな資料が並びます。
常設展示室
常設展示室
ミュージアムの最大の見どころといえるのが、5世紀に造られた「稲荷台1号墳(山田橋)」から出土した《「王賜」銘鉄剣》です。
長さは約73cmほどに復元できる鉄剣で、持ち手寄りの部分に「王賜」ではじまる銀象嵌の銘文が、肉眼でもはっきりと確認できます。劣化を防ぐ特殊な専用ケースに入れられており、360度まわって鑑賞することができます。
《「王賜」銘鉄剣》
鉄剣は、当時のヤマト王権の大王が古墳の被葬者に授けたと推定されています。古墳の築造時期から、その「王」は、倭の五王の「済」=允恭天皇とする説が有力です。
古墳から出土した銘文入り刀剣は全国で7例しかないほか、この地域に大王と直接関わりをもった豪族がうかがえる極めて貴重な資料。将来的には、国指定の重要文化財になることも期待されます。
《「王賜」銘鉄剣》(部分)
エントランスから見て右手の旧・埋蔵文化財調査センターの方に進むと、通路の奥に民俗展示室が見えてきます。
南北に広がる市原は、河川が東京湾に通じ、生活と結びついた道具が生み出されました。ここではさまざまな道具類が展示されているほか、海川両用の貨客船「五大力船」は映像でも紹介されています。
民俗展示室
情報コーナーの壁面では、旧石器時代から現代までのいちはらの歩みを年表で紹介。海苔採り舟と海苔養殖道具も展示されています。
情報コーナー
博物館に隣接するのが「歴史体験館」です。5つのブースに分かれ、遺物の発掘体験のほか、古代衣装の試着体験、貝輪や勾玉などをつくるものづくり体験などが行えます。
特に子どもたちは、見るだけでなく身体を動かして体験することで、関心の度合いが大きく変わってきます。もちろん、大人も体験可能です。体験プログラムのスケジュールは、公式サイトでご確認ください。
歴史体験館
歴史的に重要な文化財と、充実の体験施設。市原市民にとってはもちろんですが、市外の歴史ファンの注目も集めそうな新ミュージアムです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年11月16日 ]