装飾や手芸などに用いる穴の開いた小さな玉、ビーズ。世界中の考古遺跡から見つかっている人類最古の装飾品のひとつで、土、石、ガラスなどさまざまな素材を用いて、仮面、衣装、装飾品、人形などがつくられてきました。
国立民族学博物館が所蔵する資料を中心に、古今東西のビーズを見せていく展覧会が、渋谷区立松濤美術館で開催中です。
渋谷区立松濤美術館「ビーズ ― つなぐ かざる みせる」会場入口
まずはビーズの定義から。本展では「さまざまな部材に穴をあけ、糸などでつないだもの」を、ビーズとしています。
人類最初のビーズといえるのは、約12万年前のイスラエルやイベリア半島の遺跡から見つかった、穴のあいた貝殻です。7万年前には南部アフリカで貝、4万年前に東アフリカでダチョウの卵殻を利用したビーズが使われました。
「ビーズとは何か」
続いて、素材別の紹介です。ビーズといえばプラスチック製のものが思い浮かびますが、歴史的に見ると実に多くの素材がビーズになっています。
古くからビーズになったものが、種子や果実、花、葉、木材などの植物です。スイカの種のように大きさや形を変えずにそのまま使えるもの、ジュズダマのようにすでに穴があいているもの、プルメリアやジャスミンの花のように匂いを持つものも使われます。
「多様な素材 植物」
ビーズとして使われる貝は、巻き貝の一種であるタカラガイのほか、赤い貝ビーズとして珍重されたウミキクガイなどです。
食用として馴染み深いアサリやシジミ、ツブ貝などは、あまりビーズには使われていません。
「多様な素材 貝」
その硬さと大きさが向いているのか、哺乳類の歯は、世界中でビーズになっています。
サル、ジャガー、イヌ、イルカなどの犬歯のほか、ヒトの歯 (とくに犬歯や切歯)は、首飾りに利用されてきました。
「多様な素材 歯・牙」
続いて、ビーズの歴史と広がりを見ていきます。ビーズは約12万年前に誕生。ビーズの素材である貝、石、ガラスなどは、交易品として流通しました。
ビーズの素材として使われる石は、カーネリアン、ヒスイ、メノウ、トルコ石、ラピスラズリ、水晶など。どこにでもあるわけではなく、産地は石により異なっています。
とくにミャンマーから北インドにかけてのアジア地域には、カーネリアンなどの石の産地が多くあります。
「あゆみ 石の道」《首飾り》インド 個人蔵
古代オリエントで生まれたガラスは、ビーズの文化に大きな変革をもたらしました。
ガラスの流通は、中世にヨーロッパとアフリカをつなげ、大航海時代にはヴェネツィアやボヘミアのビーズが世界の多くの地域にひろがっていきました。
「あゆみ ガラスの道」
次は、ビーズの生産について。ビーズには「穴をあける作業」と「つなげる作業」が必要です。
素材が貝や石の場合は穴をあける道具が用いられ、鉄やガラスの場合は、最初から穴のあいたビーズがつくられます。
「つくる」
下の階では、世界各地のビーズが地域ごとに紹介されています。ビーズは身体を飾ることはもちろん、家族のつながり、社会のなかの地位、民族のアイデンティティを示すなど、さまざまな役割があることがわかります。
北アメリカの先住民は、古くから貝や石、木の実などでビーズをつくっていました。ヨーロッパからガラスビーズがもたらされると内陸部にまでひろまり、衣類や馬具などの日常品に取り入れられました。
「ビーズで世界一周 北アメリカ」
ヨーロッパのビーズは、ガラスや真珠の首飾りのほか、琥珀など樹脂の化石のものもみられます。モスクワ近郊では、陶器製ビーズが特産です。
ガラスビーズはイタリアのヴェネツィアとチェコのボヘミアがよく知られているほか、オーストリアのスワロフスキー社は世界に広く流通しています。
「ビーズで世界一周 ヨーロッパ」
世界のなかで最も多くの量のガラスビーズを利用してきたのが、サハラ以南のアフリカです。
以前はヴェネツィアのビーズ、現在はチェコのガラスビーズが、東アフリカや南部アフリカに導入されてきました。西アフリカでは、トンボ玉が好まれます。
「ビーズで世界一周 アフリカ」《儀礼用衣装一式》コンゴ民主共和国 国立民族学博物館蔵
台湾原住民族は、ガラスや陶器、土器、メノウなどの準貴石、動物の骨、角、歯、貝殻、毛、植物のジュズダマ、竹など、多様なビーズ製品を使ってきました。
これらのビーズ文化は現代になって新たな展開を見せており、若い世代を中心に、自らビーズを製作する原住民族の人びとが現れています。
「ビーズで世界一周 東アジア(台湾)」
現代の日本では、産業として高品質のビーズが生産され、海外にも輸出されています。昭和時代には「ビーズバック」が流行し、独自の「ビーズ織り」や「ビーズ絵画」の作品も生まれています。
アフリカのジンバブエでは、廃材のワイヤーで動物や車などをつくるワイヤーアートに、南アフリカのビーズ文化を取り入れ、カラフルに仕上げるビーズクラフトが誕生し、近年はその技術を学んだ日本人の工芸家が、日本で新たな作品を生み出しています。
「グローバル時代のビーズ」(左から)ティナーシュ・マデロ《ワイヤー・ビーズ(クドゥ)》南アフリカ / ZUVALANGA《ワイヤー・ビーズ(キリン)》日本
「グローバル時代のビーズ」 ZUVALANGA《ワイヤー・ビーズ(キリン)》(部分)日本
まさに一粒から無限に広がるビーズの世界。美術としての美しさとともに、歴史的な広がりを実感できる楽しい展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年11月14日 ]