暗闇の中に大画面で幻想的に浮かびあがる、クジラやクマなど。映像のような奥行きを感じますが、素材はなんと、スタイロフォーム!
建築などで断熱材として使われるスタイロフォームを削り、背面から光を当てるという、前代未聞の手法「光彫り™(ひかりぼり)」で制作を続ける美術家、ゆるかわふう氏の作品展が、そごう美術館で開催中です。
そごう美術館「光の芸術家 ゆるかわふうの世界~宇宙(そら)の記憶」会場入口
ゆるかわふう氏は、1980年大阪府出身。東京藝術大学では建築を学んだ後、同大学院では芸術学(美術解剖学)を修了。現在は神奈川県湯河原町を拠点に、作品を制作しています。
「光彫り」は、ゆるかわふう氏が考案したオリジナル技法です。藝大時代に建築模型制作の素材として身近にあったスタイロフォームで茶室をつくったことから始め、素材に凹凸をつけて背後からLED照明を透過させる、現在のスタイルを確立しました。
(左)《YOU GOT WATER》2019年
海の生き物がモチーフになった作品が多いのは、作家自身がダイビングを趣味にしているなど、海に親しんでいることから。深淵な海中の世界が、展示室に広がります。
特徴的な青色ですが、スタイロフォームの背面から白色のLED照明を当てているだけで、素材に色をつけたり、青い照明を使っているわけではありません。
《YOU GOT WATER 01》2015年
ホッキョクグマの作品は、テレビ番組の出演がきっかけとなって制作した作品。制作にあたり、静岡県の日本平動物園のホッキョクグマを取材しました。
ゆったりと泳ぐホッキョクグマの毛並みの質感が伝わってくるような表現力ですが、こちらも素材はスタイロフォームです。
《うたかたの夢》2020年
この作品も含めて、館内では数か所、数分おきに照明が切り替わるコーナーが設けられています。
下の写真が、通常の展示風景です。
《うたかたの夢》2020年
照明が切り替わると、この通り。完全に別の作品を見ているようで、その違いには驚かされます。
《うたかたの夢》2020年
《I’m flying》は、今回の展覧会に向けて制作した新作。横浜らしさを考え、大桟橋に停泊している豪華客船「飛鳥Ⅱ」を描きました。
デッキの手摺など、細部の表現も見どころです。
《I’m flying》2022年
これまでの手法を発展させたシリーズが、光の風景を描いた一連の作品。スタイロフォームの作品の手前に不透明のアクリル版を被せることで、全体的にモヤがかかったような印象になっています。
アクリル版に近い部分ははっきりと、遠くなるとボケ感が強くなるため、遠近感が感じられます。
そごう美術館「光の芸術家 ゆるかわふうの世界~宇宙(そら)の記憶」会場
本展は神戸ファッション美術館で今年1月〜3月に開催された展覧会の巡回展で、ゆるかわふうにとって初めての大規模展です。
テレビ出演も多いゆるかわふう氏。ただ、その作品は「凹凸が生み出す美」ということもあり、実物を見るのが一番です。唯一無二の世界をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年11月11日 ]