アジア、中東、ヨーロッパなど、各地で生産されてきた陶磁器。その歴史を俯瞰してみると、地域ごとに特性を持ち、それぞれが影響しあいながら発展を遂げていったことがわかります。
古今東西のさまざまな陶磁器を展示し、その交流の流れに思いを馳せる展覧会が、出光美術館で開催中です。
出光美術館「惹かれあう美と創造 ― 陶磁の東西交流」会場入口
展覧会は、序章「交流のはじまり -東と西が出会うとき」から始まります。
遠方との交易は、古くは紀元前の古代エジプトでも行われていましたが、より盛んになったのはローマ帝国の時代から。中国の歴史書には、1世紀頃の中国とローマ帝国の交流について記述があります。
《金製杯》は、イラン北部のギーラーン州で出士したと考えられる金製杯です。この地の初期鉄器時代の王族の墓からは、貴金属容器、青銅の武器などが出土しています。
《金製杯》イラン 前10世紀頃 出光美術館
第1章は「人々を結ぶ路 -シルクロードの隆盛」。中国の唐時代(618-907)は、シルクロードが隆盛を極めた時代です。他地域からの文化が広く受け入れられ、国際的な大帝国に発展しました。
《三彩貼花騎馬人物文水注》は、鮮やかな三彩の水注です。有翼獣のグリフォンは、オリエントに起源を持つ想像上の怪物。後ろ向きに弓を構える騎馬人物の姿は、遊牧民族であるパルティアの弓騎兵を思わせます。胴部の貼花文は西方由来の意匠と、各地のイメージが取り込まれています。
《三彩貼花騎馬人物文水注》中国 唐時代 出光美術館
会場の途中にあるコラム的なコーナーは、特集1「イスラーム陶器にみる文様の美」。
イスラーム教は7世紀初めに預言者ムハンマドが創始し、各地に拡大。しかし、アッバース朝以降になると地域ごとに分離・独立の動きが進み、それぞれのイスラーム陶器も特徴ある表現が生まれました。
《白地刻線幾何文鉢》は、メソポタミアの初期イスラーム陶器を代表する名品の一つです。円形を重ねてつくる美しい文様は、独自に発展したイスラーム数学による高い知識から生まれています。
《白地刻線幾何文鉢》イラン 10~11世紀 出光美術館
第2章は「煌めきと青への憧れ ― イスラームの美と青花誕生」。
イスラーム陶器は、文様などで中国陶磁に影響を受けながら、独自の発展を遂げていきます。一方で中国の陶磁器も、14世紀中頃に青花(染付)の色彩や装飾が出現。これらはイスラームの金銀器や文化・習慣が反映されたものと考えられています。
《藍釉色絵金彩瓶》は、14世紀の細口長頸瓶。全体的にはペルシアの雰囲気が見て取れますが、特に下胴部の鎬蓮弁文などに中国風の影響があらわれています。
《藍釉色絵金彩瓶》イラン 伝カーシャーン 14世紀 出光美術館
特集2は「東と西をつなぐ船」。大航海時代には、大型の船が次々に建造されました。遠洋航海に優れた西欧のガレオン船は、異国風のモチーフとして東洋の陶磁器にもしばしば登場します。
《呉州赤絵㠶船文字文皿》は、明時代末期に輸出用としてつくられたもの。大海原を航海する船のほか、西洋風、東洋風の意匠も入り交じった大皿です。
《呉州赤絵㠶船文字文皿》漳州窯 中国 明時代末期 出光美術館
第3章は「海を渡った陶磁の交流 -東インド会社の時代」。15世紀末にバスコ・ダ・ガマがインドへの航路を開拓すると、ヨーロッパ各国が東南アジア・東アジアに進出します。
オランダ東インド会社などの設立で、東西の貿易は大きく発展。中央に円窓を大きく設けて、その周囲に蓮弁文を巡らせる「芙蓉手」の皿は、中国から世界中に広まりました。
この《染付芙蓉手鳳凰文皿》は、日本でつくられたもの。会場にはイギリス、オランダ、ドイツで製作された芙蓉手皿も並んでおり、いかに愛好されていたのか、よく分かります。
《染付芙蓉手鳳凰文皿》江戸時代中期 出光美術館
第4章は「惹かれあう陶磁 -柿右衛門・古伊万里の美」。柿右衛門と古伊万里は、有田地域(佐賀県)でつくられた、日本の代表的な輸出陶磁です。17〜18世紀のヨーロッパでは磁器が制作できなかったため、東洋の磁器は「白き黄金」と珍重されていました。
重要文化財《色絵花鳥文八角共蓋壺》は、柿右衛門の色絵壺のなかで最大級の作品です。これらは主にヨーロッパに向けて輸出され、調度品として王侯貴族の宮殿を彩りました。本作品もイギリスからの里帰り品と伝わります。
重要文化財《色絵花鳥文八角共蓋壺》柿右衛門 江戸時代前期 出光美術館
終章は「近現代陶芸の交流 -東西交流のつづき」。近代になると、日本のやきものは外貨獲得の手段に。また「美術」という概念が生まれ、それまでの工房による分業体制とは異なる、陶芸家・個人作家がみられるようになりました。
富本憲吉(1886-1963)は、東京美術学校(現・東京藝術大学)で図案を学んだ後、渡英。帰国後に作陶を始め、人間国宝に認定されるなど第一人者として活躍しました。
(左から)《色絵金彩羊歯模様大飾皿》富本憲吉 昭和35年(1960)出光美術館 / 《色絵金銀彩羊歯文角瓶》富本憲吉 昭和34年(1959)出光美術館
各地域、各年代の陶磁器を一堂に集めて紹介する本展。日本有数の「陶磁の東西交流コレクション」の美術館としても知られる、出光美術館ならではの企画です。
並んでいるのは、異文化を理解し、互いの文化を認めて生まれた陶磁器の数々。争いが続く現代社会へのメッセージとしても、とらえる事ができそうです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年11月7日 ]