福岡市美術館では特別展「藤野一友と岡上淑子」が開催されています。藤野の没後開催された回顧展がきっかけとなり、現在、福岡市美術館には1500点以上の藤野の作品と資料が同館で所蔵されています。今回の特別展では、1957年に結婚した藤野と岡上それぞれの作品がふたつの個展形式で紹介されています。
会場入り口
会場入って左には美術家・岡上淑子の作品が時代順に展示されています。岡上のコラージュ作品に使用されているのは、戦後アメリカの進駐軍が残した『VOGUE』『LIFE』『Seventeen』『Harper's BAZAAR』などの海外雑誌です。
会場風景
岡上はファッションデザインを学ぶ中で『ちぎり絵』の課題がきっかけとなりコラージュを始めました。初期の作品は無地の紙にコラージュのパーツが貼られています。当初は作家志望ではありませんでしたが、オリジナルの世界観は友人をはじめ多くの人を惹きつけました。
左から《ポスター(旧題:作品B)》《聖女》
その後、背景にも洋雑誌の写真を使いコラージュ素材を貼り重ねていく作品に変わります。1950年代の作品ですが、現代作家の作品といわれても違和感がないほど洗練されています。いきいきとした女性の顔やおしゃれなモデルのファッションがコラージュされているのが印象的です。
左から《孤独の賛歌》《遁走のマリア》
1953年から個展の開催、展覧会の出品が相次ぎ、雑誌で特集が組まれることもありました。結婚後、創作活動から遠ざかっていたこともあり『幻のコラージュ作家』とも称される岡上ですが、新聞に自作のショート童話と挿絵のコラージュ作品を発表しています。
上から《コグマノゴンベ》山梨日日新聞《ねこ童子》愛媛新聞
会場入って右には画家・藤野一友の作品が時代順に展示されています。どの作品もとても細密で細部まで手を抜かず緻密に描かれているのが印象的です。
会場風景
一見びっくりしてしまう作品ですが《神話》はギリシャ神話のアドニスの誕生をベースに我が子の誕生を描いた作品と考えられています。左上の天使が藤野と岡上の名前が入った紙を持っていたり、子どもが生まれてから作品にも子どもが描かれるように変化していたり家族愛を感じます。
左から《習作》《神話》
《神話》一部アップ
藤野一友・大林宣彦共作の16㎜フィルムの短編映画『喰べた人』が上映されています。登場人物に台詞は無く、何を見せられているのか訳が分からなくなるような不気味さもありますがコメディーのような面白さもあり惹きつけられる作品です。監督だけでなく、脚本、出演もこなす藤野一友の演技も必見です。
藤野一友・大林宣彦共同監督『喰べた人』1963年 ©株式会社大林宣彦事務所
藤野は幻想絵画だけでなく本の装丁や挿絵、舞台装置のデザイン、詩や小説の執筆まで幅広く活躍しておりその作品の数々も見ることができます。また、藤野の没後にSF単行本『ヴァリス』3部作の表紙を飾った作品も展示されています。
右から《卵を背負った天使》《抽象的な籠》《眺望》
二人の作品には、戦後の日本で制作されたとは思えない斬新さと美しさ、そして想像を超える想像力がありました。特別展会場の前にあるコレクション展示室には、藤野一友に強く影響を与えたサルバドール・ダリの作品も展示されています。コレクション展は特別展のチケットで観覧することができます。
コレクション展案内
[ 取材・撮影・文:mai / 2022年11月1日 ]
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