近代ヨーロッパで発明された喫煙用の着火具、ライター。現在では使い捨てのライターもあり、とりたてて目立つ存在ではありませんが、その歴史を遡ると、着火システムの進歩から、製品としての造形美まで、独特の魅力に溢れた装置である事も分かります。
ライターの前身である着火具から、ダンヒルやロンソンなどメーカーが手がけた製品、そして日本のライター産業まで、さまざまなライターの姿を紹介する展覧会が、たばこと塩の博物館で開催中です。
たばこと塩の博物館「ヴィンテージライターの世界」会場
会場は1章「“ワンモーションで着火”への道」から。ライターの着火機構は、人類が古来から行ってきた「打撃法」がもとになっています。「火打ち石で火花を起こす」「火花を燃料に移して火を得る」というふたつの作業を、いかに一発の操作で実現するか。さらに、燃料を安全かつ手軽に持ち運ぶ、という工夫の歴史でもあります。
ティンダーピストル型のテーブルライターは、火花を起こして、火花を火口に移す動きを、一発で実現したライター。ただ、燃料を使わないので、燃焼は継続しません。
ティンダーピストル型テーブルライター Dunhill イギリス
20世紀に入るころにオイルを燃料とするライターが発明されると、オイルタンクのフタをあけるため、さまざまなモデルが考えられました。
ダグラスによるセミオート式ポケットライターは、右側のボタンを押すと、リフトアームが跳ねあがりながらホイールも回転して着火。消す時は、アームを戻す必要があります。
セミオート式ポケットライター Douglass アメリカ 1920年代
2章は「銘品の時代」。1920年代の欧米で、オイルライターが普及すると、デザインが重要視されるようになりました。表面加工の技術も発展し、金工品や服飾品のメーカーが相次いでライター製造に乗り出していきます
イギリスのダンヒルは馬具製造からスタート。自動車時代の到来を予期して自動車用品店をいち早く開業、さまざまな商品を生み出しました。
ローラライト Dunhill スイス 1930年代
ロンソンはアメリカの会社、アート・メタル・ワークスによるブランド。当初はさまざまな金工品を手がけていましたが、1926年に開発したオート式オイルライター「バンジョー」がヒットし、ライター製造が事業の中核になりました。
1920~50年代のポケットライターを見ると、クロームメッキとエナメルを組み合わせ、アールデコ調のデザインが目立ちます。
オート式ポケットライター Ronson アメリカ 1920~30年代
エバンスは、アメリカのエバンス・ケース・カンパニーのブランド。バニティ・ケースやハンドバッグの製造から、中に入れる婦人向け小物も手がけるようになり、コンパクト、ハンドミラー、そしてポケットライターも製造しました。
婦人向けらしい優美なデザインが特徴的です。
オート式ポケットライター Evans アメリカ 1930~50年代
3章は「広がるライター 第二次世界大戦とその後」。第二次世界大戦でアメリカ軍は兵士にジッポーを支給しました。それまでジッポーのライターは真鍮製でしたが、真鍮は軍需物資だったため、鉄製の基体に錆止めの黒い焼き付け塗装を施した「ブラック・クラックル」モデルを採用しました。
戦後、ジッポーは民需に再転換。機構やサイズは限られたラインナップながら、表面には企業ノベルティ用などの装飾も施され、バリエーションは無数といえます。
ブラック・クラックル モデル Zippo アメリカ 1940年代
一方、日本では1920年代からオイルライターの製造が本格化。戦時中は金属供出もありライターは姿を消しますが、戦後になると日用品の製造が復興の足がかりとなり、オイルライター製造はその旗手といえるほど盛んになりました。
戦後の日本製ライター
最後の4章は「ライター珍品奇品」。ライターのデザインは限りなく、特にテーブルライターは造形も自由が利くため、バラエティに富んでいます。
一般に喫煙者は男性が多いことから、男性受けしそうなモチーフが多いのは特徴といえます。
4章「ライター珍品奇品」
いかにも、たばこと塩の博物館らしい企画ですが、意外にも同館でライターをテーマにした展覧会は初めてとのこと。バラエティに富んだライターの世界をお楽しみください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年9月9日 ]