日本の文化の中心に位置し、美術を保護、奨励してきた皇室。昨年、宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する名品の中で5件が国宝に指定されました。
皇室に伝わる珠玉の名品に東京藝術大学のコレクションを加えた82件の作品を通じて、日本美術の豊かな世界を紹介する本展。8月30日からは、いよいよ伊藤若冲による国宝《動植綵絵》が登場しました。
東京藝術大学大学美術館 特別展「日本美術をひも解く ─ 皇室、美の玉手箱」会場入口
展覧会は3階から地下2階に進む動線で、「序章 美の玉手箱を開けましょう」から始まります。
近代に「美術」が学問として位置づけられると、当時の宮内省と東京美術学校によって、後世に伝えるべき名品が定められました。
《菊蒔絵螺鈿棚》は、東京美術学校に図案を依嘱し、皇居内に設けられた制作場で約9年をかけて制作されたもの。伝統的な技術を結集した逸品です。
(左手前)《菊蒔絵螺鈿棚》(図案)六角紫水・(蒔絵)川之邊一朝ほか・(金具)海野勝珉 明治36年(1903) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [通期展示]
1章は「文字からはじまる日本の美」。仮名は、平安時代に日本人の感性によって生み出された優美な文字。仮名は、物語や和歌を発展させ、それらをモチーフとした美術意匠につながっていきました。
洗練された筆致の《粘葉本和漢朗詠集》は、平安時代の古筆の中でも屈指の名品。唐紙に雲母で摺り出された文様が、文字と見事に融合しています。
(右手前)《粘葉本和漢朗詠集》伝 藤原行成筆 平安時代(11世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [通期展示(場面替あり)]
2章は「人と物語の共演」。日々の生活や信仰、回想や幻想などから生まれた物語は、特徴的な日本の四季や人々の営みを描き、深遠な日本美の世界を作り上げていきました。
国宝《春日権現験記絵》は、貴族が絵所預(宮廷絵師集団の責任者)であった高階隆兼に命じて描かせた作品。さまざまな人物、調度類、折々の景物や生き物などが緻密に描写され、鎌倉時代後期のやまと絵の最高水準を示しています。
国宝《春日権現験記絵》(巻四部分)高階隆兼筆 鎌倉時代・延慶2年(1309)頃 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [通期展示(巻四:8/6~9/4、巻五:9/6~9/26)]
《太平楽置物》は、1900年のパリ万博で世界に披露された彫金の最高傑作。太平楽は天下泰平を祝う舞楽の1つで、背中に背負った矢を納める胡鑛には、矢が逆さに入れられ、平和の舞を象徴しています。
《太平楽置物》海野勝珉作 明治32年(1899) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [通期展示]
地下2階に進んで「3章 生き物わくわく」。お待ちかねの国宝《動植綵絵》は、この章です。
さまざまな生き物の尊い生命と、生きているからこその美しさを描くため、伊藤若冲が約10年をかけて制作した全30幅の大作。本展では芍薬群蝶図、梅花小禽図、向日葵雄鶏図、紫陽花双鶏図、老松白鶏図、芦鵞図、蓮池遊魚図、桃花小禽図、池辺群虫図、芦雁図の10幅を一堂に公開します。
国宝《動植綵絵》伊藤若冲筆 江戸時代 宝暦7年(1757)頃~明和3年(1766)頃 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [展示期間:8/30~9/25]
こちらは、日本一有名な鮭の絵。重要文化財《鮭》は、日本における油絵の基礎をつくった高橋由一が50歳頃に描きました。
高橋由一の鮭は人気があったようで、同様の鮭の図はいくつか現存します。本作は特に大きく、目を引く作品です。
重要文化財《鮭》高橋由一筆 明治10年(1877)頃 東京藝術大学蔵 [通期展示]
最後は「4章 風景に心を寄せる」。豊かな自然は、古くから文学や絵画で表現されてきました。
《七宝四季花鳥図花瓶》も、1900年のパリ万国博覧会への出品作。明治天皇の御下命を受けて制作されました。繊細かつ華麗な有線七宝と、絵画的な空間構成が融合。鮮やかに浮かび上がる桜や鳥たちは見事です。
(手前)《七宝四季花鳥図花瓶》並河靖之作 明治32年(1899) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 [通期展示]
奈良時代から昭和にかけての多種多様な作品で、日本美術の豊かな表現を堪能できる展覧会です。
後期展示の中でも、さらに展示替え・巻替えがありますので、詳しくは展覧会公式サイトの出品リストでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年8月30日 ]