改修工事を終え、2022年4月にリニューアルオープンした三井記念美術館。再開記念展覧会の第2弾では、三井家が収集した茶道具の中でも中心となる陶磁器に焦点をあてました。
茶碗、茶入、花入、水指などの中で、文学的な銘が付けられた器を中心に紹介しています。
三井記念美術館「茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる」
今回は、展示室ごとにご紹介していきます。まず展示室1は茶碗。名碗とされる茶碗の多くには、その茶碗固有の「銘」や、器形や文様、来歴にちなんだ呼び名があります。
「三好粉引」は、戦国時代に三好長慶が所持していたと伝わることからの命名です。楔形の釉の掛け残りが特徴的です。
重要文化財《粉引茶碗 三好粉引 大名物》朝鮮時代 16世紀 北三井家[展示期間:7/9~8/7]
展示室2では、三井記念美術館が誇る国宝《志野茶碗 銘卯花墻》。日本で焼かれた陶磁器の中で国宝は2碗しかなく、そのうちの1碗がこちらです。
志野釉の下に鉄絵で簡略な垣根が描かれており、白い志野釉と鉄絵の景色から「卯花墻」の銘が付けられています。
なお、後期には重要文化財《玳皮盞 鸞天目》が展示されます。
国宝《志野茶碗 銘卯花墻》桃山時代 16〜17世紀 室町三井家[展示期間:7/9~8/7]
展示室3は織田有楽斎(織田信長の実弟)が京都・建仁寺境内に建てた茶室「如庵」を再現した〔如庵ケース〕。有楽所持として伝わる、高麗茶碗の大井戸茶碗が展示されています。
茶室・如庵は、現在は愛知県犬山市に移築されています。
展示室3〔如庵ケース〕
展示室4は花入・水指。《備前徳利花入 銘雨後月》は、もとは徳利だったものを花入に見立てたものです。
胴にぼた餅状の赤い抜けがあり、これを雨後の月の景色に見立てたとされていましたが、本展では裏側の景色を見立てたのかも、という新解釈が出されました。裏面は鏡で見ることができます。
《備前徳利花入 銘雨後月》桃山時代 16~17世紀 室町三井家
通路状の展示室5は、茶壺・茶入ですが、ここではあわせて展示されている《和漢朗詠集帖「眺望」》をご紹介。
近衛家に伝来する「倭漢抄」(国宝、陽明文庫所蔵)の一部を、江戸時代中期に当時の近衛家当主だった近衛家煕(予楽院)が臨書したものです。家煕は、古筆の収集や研究に注力したことでも知られています。
《和漢朗詠集帖「眺望」》近衛家煕 江戸時代 17~18世紀 北三井家
小さな展示室6に並ぶのは、香合です。《志野重餅香合》は、鏡餅のような重ねた餅をイメージしてつけられた名称と思われます。
ただ、蓋甲の網目文様や、胴の擂座(るいざ)文様などから、もとは香炉を写したものと考えられています。
(右手前)《志野重餅香合》桃山時代 16~17世紀 室町三井家
最後の展示室7は、楽茶碗と紀州御庭焼です。
重要文化財《黒楽茶碗 銘俊寛》は、樂家初代長次郎(?~1589)によるもの。茶碗を三碗送ったところ、この茶碗を残して二碗は送り返されてきたことから、『平家物語』にある鬼界島に一人残される俊寛の故事にちなんで命名されました。
(左奥から)《赤楽茶碗 銘再来》樂道入 江戸時代 17世紀 北三井家 / 重要文化財《黒楽茶碗 銘俊寛》長次郎 桃山時代 16世紀 室町三井家[展示期間:7/9~8/7]
器の表面に見られる釉薬の変化や器の姿などに「景色」を感じ、自然を見出して名前をつけるのは、まさに日本的な感覚といえるでしょう。
自然を見るような心持ちで、わび・さびの美を感じていただければと思います。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年7月8日 ]