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《ロンドンのタワーブリッジ》貼絵 1965年
「放浪の画家」として知られる山下清。作品そのものより、ドラマなどの印象が強く残っている人が多いかもしれません。それはなんともったいないこと!
神戸ファッション美術館で開催中の生誕100年となる山下清展で彼の「真の姿」を感じてみませんか。
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今回初出展となる幼少期の鉛筆画
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観察力がすばらしい昆虫の貼絵
本展では、幼少期から遺作《東海道五十三次》シリーズまで時代順に約170点の作品と資料が紹介されています。
まず驚くのは8~10歳の頃に描いた鉛筆画。家族との食事風景やこいのぼりなど、細かな描写は、のちに私たちが知る彼の貼絵を彷彿させます。幼いころから絵を描くことに長けていたことも一目瞭然です。
また同時代の昆虫の貼絵も残されています。観察力に感心すると同時に、好きな虫に夢中になっている山下少年が浮かんできます。
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八幡学園時代の作品 上/《身体検査》貼絵 1937年 下/《雪だるま》貼絵 1937年
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《ゆり》貼絵 1938年
幼少期に患った病気がきっかけで、彼は軽い知的障害になり、12歳で養護施設「八幡学園」に入学します。そこで教育の一環として「ちぎり絵」に出会い、「貼絵」へとつながっていきます。作品は年を追うごとに技術の向上が見られます。どんどん小さくちぎられる紙、こよりにして枝や髪の毛を表現するなど。彼らしい作品への変化は、彼が彼自身の中にある何かに気づいたような、心の開きも感じます。
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《自分の顔》貼絵 1950年 見ごたえのある作品。近づいたり離れたりしながら味わってほしい。
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展覧会風景
外の世界を知りたいと18歳の清は学園を飛び出し、放浪に出ます。徴兵検査を避けるためにとも記された日記も残されています。旅先の風景画は、現地でスケッチすることはほとんどなく、自宅や学園に戻ってから作品にしたというから驚きです。写真を切り取るように彼の脳裏にくっきりと残った景色をそのまま、いやそれ以上に表現していたのです。
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手前のリュックは放浪の時に使用していたもの
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展示資料の一部 パスポートには「Painter(画家)」と記されている。
担当学芸員の中村圭美さんは、「見たものを彼の身体を通して表現する物語」が清の作品にはあり、それが大きな魅力だと言います。知らない土地へ行き、初めて見るものに胸をときめかせ、自然や四季の移ろいを肌で感じた清のままの感情……彼が紡ぐ物語に誘われた私たちは、作品の前でしがらみをほどき、自分の原風景の広がりを体感します。
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《長岡の花火(有田焼)》色絵大皿 1957年
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《東京オリンピック》ペン画 1964年
展覧会では、貼絵だけではなくペン画や水彩画、油絵、または陶磁器への絵付けなど、様々な技法の清の作品が紹介されています。どの分野においても清らしさを感じさせます。
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山下清
「今年の花火見物はどこに行こうかな」という言葉を残し49歳でこの世を去る清。花火のように清の作品の余韻がいつまでも心に残ります。
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展示風景
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年6月2日 ]
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