南米コロンビア出身の美術家、フェルナンド・ボテロ(1932~)。あらゆるモチーフを“ふくよか”に描くボテロの日本国内では26年ぶりとなる大規模展が、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中です。
Bunkamura ザ・ミュージアム「ボテロ展 ふくよかな魔法」展 会場入口
会場では6章にわたり、ボテロ作品の魅力を紹介。本人の監修により、初期から近年までの油彩や水彩、素描作品など全70点で構成されています。
第1章は「初期作品」。ふくよかに描くことへの執着は、ボテロの初期の制作に遡ります。17歳の時に描いた水彩画《泣く女》からすでに、人物の丸みやふくよかさを感じることができます。
1952年、20歳の時にヨーロッパに渡ったボテロは、様々な名画や批評家に出会う中でボリューム感やデフォルメ表現、色彩に対する基盤を確立していきます。
(左から)《泣く女》 1949年 / 《バリェーカスの少年(ベラスケスにならって)》 1959年
第2章は「静物」。果物や植物だけでなく、ギターやマンドリンなどの楽器もモチーフとして頻繫に登場します。サウンドホールを小さく描ことで楽器全体の輪郭が大きくなり、細部とのコントラストから楽器がふくらんで見えます。
《楽器》 1998年
ボテロの作品は、青年時代の記憶が創作の主題となっています。第3章「信仰の世界」では、ボテロが育ったコロンビアで大きな存在と言える聖職者の世界を描いた宗教的な作品が並びます。
(左から)《聖カシルダ》 2014年 / 《聖ゲルトルード》 2014年 / 《聖バルバラ》 2014年
宗教的なテーマへの関心は、聖職者の世界とそこにあるかたち、色彩、衣装、そしてその造形的で詩的な側面を絵画的に探究するためのものであり、ボテロはユーモアと風刺をもって人物にアプローチしています。
1992年に描かれた《コロンビアの聖母》には、コロンビアの聖母と現代的な服装をした幼子イエスが登場します。イエスの手にしている小さな国旗はコロンビアの弱体化を象徴しているのではないでしょうか。聖母の涙からは、社会的対立が繰り返されている自国の政治的・社会的状況への嘆きが感じとれます。
(左から)《守護天使》 2015年 / 《コロンビアの聖母》1992年
23歳の時にメキシコ芸術に出会ったことがターニングポイントとなり、画面いっぱいに大胆な色使いで描いた鮮やかな作品へと変容させます。第4章「ラテンアメリカの世界」では、近年に制作している大型カンヴァスに水彩で彩色したシリーズも展示。ラテンアメリカの生き生きとした人々の様子をうかがうことができます。
第4章「ラテンアメリカの世界」 展示風景
毎年、メキシコ南部の漁村であるシワタネホに1か月ほど滞在をするボテロ。2006年の訪問中に、ラテンアメリカの趣のあるサーカスに出会い、詩的な味わいやかたちと色の造形性に衝撃を受けます。第5章「サーカス」の作品では、活発に動くサーカスの役者に対して、ボテロ作品の人物に典型的な静けさとダイナミックさを感じます。
第5章「サーカス」 展示風景
第6章「変容する名画」では、ベラスケスやラファエロ、ヤン・ファン・エイクなどの芸術家たちへ造形的なオマージュ作品が並びます。
ヨーロッパ渡航で多くの作家の影響を受けたボテロにとって、既存の作品を自分の様式に再現することが美術の世界における芸術家の最大の貢献と考えていました。
第6章「変容する名画」 展示風景
第6章「変容する名画」 展示風景
中でも最も見どころと言えるのが、《モナ・リザの横顔》です。
モナ・リザのシリーズは、これまでも制作を行ってきましたが、1961年にニューヨーク近代美術館が《12歳のもモナ・リザ》を購入したことがきっかけとなり、ボテロの名を有名にしました。 会場では、モデルを横向きに配置した2020年の作品が世界初公開で展示されています。
《モナ・リザの横顔》 2020年
ボテロ作品に初めて触れる方もボテロファンにとっても、充実した展覧会。ミュージアムショップでは、クリアファイルやポストカードだけでなく“ふくよかシール”や“メタボチェックメジャー”など捻りのあるお土産にも注目です。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年4月30日 ]