「庭園美術館は、建物そのものが一番の研究資料であり、所蔵品です。」 本展を企画したキュレーターの言葉。まさに、歴史ある風格と、こだわり抜いた意匠の数々は研究資料として非常に価値がありつつ、芸術品と呼ぶにもふさわしいものです。
年の一度の「建物公開」は、美術館そのものの建築を“見せる”展示。 毎年テーマを変えて開催されるこの企画で、今年の題材には「アール・デコの貴重書」が選ばれました。
「東京の朝香宮邸の大広間」 『イリュストラシオン・モダンインテリア特集4708号』1933年5月|東京都庭園美術館
普段は見られない内装の部分までじっくりと堪能できるほか、会場内の撮影も楽しめます。
※望遠レンズ・フラッシュ・ストロボ・三脚・レフ板・自撮り棒などの使用はご遠慮いただいております。また、係員の指示に従うようお願いいたします。
穏やかな春の日に開かれた、内覧会の様子をご覧ください。
旧朝香宮邸の魅力とアール・デコ
東京都庭園美術館の本館は、1933年に竣工した「旧朝香宮邸」が元になっています。 かつてここに住んでいた旧皇族の朝香宮夫妻は、1920年代のヨーロッパ滞在中に、当時全盛期を迎えていたアール・デコの様式美に魅せられました。 帰国した2人は自邸を建設するにあたり、フランスのアール・デコ様式をふんだんに取り入れた邸宅作りの構想をします。
荘厳さの中に居心地の良さも感じられる空間
アール・デコ様式とは、20世紀初頭のフランスを中心に、ヨーロッパを席巻した装飾様式の総称です。工芸・建築・絵画・ファッションなどあらゆる分野に波及しました。 直線と立体の知的な構成と、幾何学的模様が特徴的です。
主要な部屋の内装設計に関わったのは、フランスの室内装飾家であるアンリ・ラパン。 デザイナーにはガラス工芸で著名なルネ・ラリックを起用し、本場フランスのテイストにこだわっています。 宮内省 内匠寮(たくみりょう)が手がけた中でも特色のある建築として、のちに国の重要文化財に指定されました。
1983年に美術館として開館した現在も、それらの美しさは失われていません。 当時のオリジナルのまま残された床や壁紙も、改めてじっくりとご覧いただけます。
展覧会によっては見えない部分まで鑑賞できる貴重な機会
暮らしぶりの再現も、「建物公開」の見どころの一つです。 今回はアートディレクターの太田はるの氏が、「読書会のティータイム」をテーマに大食堂のテーブルデコレーションを制作しました。
高貴なティータイムの様子が思い浮かぶセット
2階の書庫には本が並ぶ様子をイメージした演出を施し、所蔵品であるランプも添えてアンティークな雰囲気を演出しています。
クラシカルな書庫の様子
数々の貴重書にご注目
こうした設立の背景から、東京都庭園美術館はフランスの室内装飾美術に関する書籍や雑誌、1925年のアール・デコ博覧会に関連した文献資料を豊富に所蔵しています。 今回展のラインナップは本が主体。その数は、展示件数にして75件。冊数を数えると200冊以上にものぼるそうです。
古い紙の質感まで手にとるようにわかります。
それらは、現在も研究に役立てられる貴重な資料。 普段は研究資料として、展覧会の脇役である貴重書たちが今回は主役に。 鑑賞者から見て貴重な書物であるのはもちろん、美術館にとっても「貴重書」と言えるのです。
カラフルな雑誌も目を引く。
子供部屋には絵本、食堂には料理関係の本といった、居室に合わせた展示品のチョイスにもご注目ください。 展示作品と建物が見事にマッチし、優美な空間を作り上げています。
2014年にオープンした「新館」の展示も圧巻です。 白基調のニュートラルでモダンな空間に、膨大なアール・デコ関連の資料が並びます。
壁面の資料は1つ1つじっくり見ても飽きないおもしろさ!
建築やデザインが好きな人なら見ていて楽しめること間違いなし! 図鑑を広げているような気分を味わえます。
新館の展示は色合いも華やかで、空間全体を楽しめます。
企画展と一緒に楽しみたいショップ・カフェ
新館のミュージアムショップ「リュミエール」では、図録や展覧会の関連グッズ、東京都庭園美術館のオリジナルグッズを展開しています。
豊富なオリジナルグッズ
今回はアール・デコ様式をイメージさせる美濃焼き陶器アクセサリーや、アンティークな雰囲気たっぷりの古文具雑貨も販売。 近年、文房具ファンから注目度も高まっているガラスペンや、パフュームインクも取り揃えています。
併設の「レストラン デュ パルク」と「カフェ庭園」では、それぞれ企画展とのコラボメニューを展開しています。 旬の食材を使い、庭園の緑をモチーフにした前菜やデザートは季節感も満載。 開放感の溢れる窓辺から、庭園の風景を楽しみながらお食事を味わっていただけます。
新緑のお出かけは東京都庭園美術館へ
本展の開催は4月末から6月初旬。まさに、新緑の美しい季節です。 東京都庭園美術館は、緑豊かなガーデンの散策にもぴったり。 邸宅時代からある芝庭や、西洋庭園と日本庭園を歩けば、心地よい風を感じながらリフレッシュできます。
窓辺から覗く庭園
四季の移ろいをもっと感じたい方は、「年間パスポート」の購入もおすすめです。 展覧会と庭園に1年間で何度でも入場できる「年間パスポート」と、庭園のみを利用できる「庭園パスポート」の2種類があります。 同伴者無料や割引などの特典も豊富なため、検討してみてはいかがでしょうか。
展覧会は6月12日まで。アール・デコの雰囲気を是非お楽しみください。
[ 取材・撮影・文:さつま瑠璃 / 2022年4月22日 ]
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