京都金閣寺や仁和寺など世界遺産をつなぐ“きぬかけの路”。宇多天皇が真夏に雪見をするために衣笠山に絹をかけたと伝わる故事にちなんだネーミングです。その道沿いに「京都府立堂本印象美術館」はあります。
京都府立堂本印象美術館 外観
堂本印象生誕130年にあたる2021年は特別記念展が開催され、前編(11/23終了)では人気の高い絵画作品品が中心でしたが、今回の後編ではマルチな創作活動に注目したラインナップとなっています。 ご覧ください!誰もが目をみはるような外観。さあ、中へ入ってみましょう。
ガラスドアもお洒落
華やかなエントランス
まずはダイナミックな色彩の襖絵。岐阜県にある瑞甲山乙津寺の秘蔵「超ゆる空」は同館では26年ぶりの特別公開。自由奔放に描かれているように見えて絶妙のバランスをとり、見る者の想像力を試すかのようです。黒と金の重ね具合や引手など細部にも独自性が見えます。
襖絵「超ゆる空」(一部)1968年 岐阜・瑞甲山乙津寺蔵
引手にも注目
これは何かわかりますか? 僧侶の袈裟なんです。カラフルな中にも着るものに誇りと信仰を感じさせるようです。
「欣舞鳳凰」 1975年 奈良信貴山成福院蔵
こちらは印象が20代に手掛けた木彫りの小さな人形たち。歌舞伎を題材にしたものが多く、もとは祇園芸妓による蒐集品で、京都ならではの幸運が残したものかと感慨深く鑑賞しました。
木彫人形「勧進帳」 1915年 など
堂本印象(1891-1975)は明治~昭和の日本が近代化の道を歩む中に生きました。京都の伝統を守る龍村平蔵工房で図案家として活動した後に日本画家としてデビュー。その後は、美術学校で教鞭をとるなど長く京都画壇を牽引してきた人物です。一方海外遊歴の影響を受けたモダンな造形感覚は絵画だけでなく室内装飾や調度品にまで及び、同美術館の独特な美の空間を創り出しました。
印象画伯自画像 1935年 京都府立堂本印象美術館蔵
彦根屏風図案 1918年 株式会社龍村美術織物蔵
彦根屏風文錦裂(一部) 2017年 株式会社龍村美術織物蔵 ※印象の図案をもとに(株)龍村美術織物が2017年に制作
作品の下絵・デッサンと完成作品を並べて見ることにより印象の試行錯誤の跡を感じることもできます。京都の観光ポスターや工芸品、織物の図案など“日本画家”という1枠でくくることなど到底できません。小さなものから大きなもの、野外オブジェともいえる壮大なもの、和洋混載でスケールの広大さに圧倒されます。
「茶釜 地中海」下絵(手前)と作品(奥) 京都府立堂本印象美術館蔵
「JTBポスター 平安神宮」 京都府立堂本印象美術館蔵
「婦人公論」表紙下絵展示風景 京都府立堂本印象美術館蔵
阿弥陀如来像 下絵 1965年 京都府立堂本印象美術館蔵(左)と下絵をもとに制作された磨崖仏(右パネル)
「船と虹」大阪・輸出繊維会館 壁画モザイク小下絵 京都府立堂本印象美術館蔵
そしてついに、自分自身の美術館をデザインしてしまうのです。壁面だけでなく、椅子や装飾品、ガラスドア引手など目に入るものすべてに躍動感と楽しさを感じます。
堂本美術館ポスター(1967年)京都府立堂本印象美術館蔵
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ミュージアムショップ
私はここを今までに7~8回は訪ねたと記憶します。関西でも多種多様な展覧会がありますが、時々この堂本印象の世界に浸りたくなるのです。館内には何か常に音楽が流れているようなリズミカルさがあり、とても居心地のよい場所に感じます。印象の襖絵は智積院や西芳寺(苔寺)の冬の拝観で観ることも可能です。静かな空間で作品に囲まれると、凛とした空気が漂って心の中に深く沁み込んでくるのです。
今回所蔵品から久しぶりに展示されるものも含め、多才な技術と感性に圧倒されつつ、印象は自らの人生をプロデュースすることを楽しめた幸せな人だったのではないかと思いました。
美術館の目の前には立命館大学があり、多くの学生が行き交います。数年前のリニューアルでバス停も外観とコラボレーションしたという話も聞きました。館外のこんもりした山庭にもベンチが並び、しばらく座って地域に溶け込む美術館を眺めてみるのも幸せな時間でした。
私の好きな壁面作品
外のベンチにも是非座ってみてください
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年12月2日 ]
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