「奥能登国際芸術祭2020+」のレポート第2弾。引き続き、気になった作品をご紹介します。

作品鑑賞の前に感染予防対策として、会場内に設定されている検温スポット(全4カ所:https://oku-noto.jp/ja/corona.html)に行き、リストバンドを入手します。室内作品の観覧には、リストバンドに付いているQRコードのチェックが必要です。日をまたぐ場合は、検温スポットでリストバンドを交換してもらいます。
児童公園に設置されたこの作品は、珠洲の空き家の廃材で作られた月面探査機です。中に乗り込むことも可能で、月とウサギをテーマにしたアニメーションも上映されています。
外観は木が目立ち、どことなくアニメに登場しそうなフォルム。クルマが大好きな男の子の人気を集めそうな気がしました。

シモン・ヴェガ〈エルサルバドル〉『月うさぎ:ルナクルーザー』 作品No.37/上戸エリア/柳田児童公園
続いて、巨大な倉庫を使ったインスタレーション。妻と知らずに殺してしまった漁師が、自らも海に身を投げてしまう悲しい民話「嫁礁」が、作品のベースです。
会場には立体や平面の作品が並び、歩きながらストーリーが進みます。尾花賢一の作品は前橋でも見た事がありますが、漫画形式のドローイングを使った会場構成は、実に見事。これほど「漫画を体感させる」ことに長けた作家は、あまり見たことがありません。実際の海の景色や波の音とシンクロするラストの演出も決まっています。

尾花賢一《水平線のミナコ》 作品No.26/直エリア/本江寺の倉庫

尾花賢一《水平線のミナコ》 作品No.26/直エリア/本江寺の倉庫
ノスタルジックな内外装が印象的な旧「喫茶アンアン」には、巨大な月のインスタレーション作品が登場しました。
作品は、昔の漁師たちが月の満ち欠けを頼りに海に出ていたことから着想。月の素材は、漫画雑誌の古本です。
夜になると、外からも鑑賞する事ができます。室内が月でぎゅうぎゅう詰めになって見えました。

クレア・ヒーリー&ショーン・コーデイロ〈オーストラリア〉『ごめんね素直じゃなくて』 作品No.21/正院エリア/旧喫茶アンアン
こちらは、能登瓦の旧製造工場を使った作品。内部の設備や残されていた物を、打楽器として鳴らしており、大きな音が建物の外まで響きわたります。
珠洲は良質な土が取れる事もあり瓦産業が発達しましたが、昭和40年代になると競争の激化を受けて衰退してしまいました。この工場は、珠洲で最後まで稼働していた瓦工場のひとつです。

ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ〈韓国〉『再会』 作品No.23/正院エリア/旧瓦工場
こちらは、空き家の壁や屋根に無数の穴が開けられた作品。日中に部屋に入ると、外からの光がまるで星空のよう。夜間に訪れると、室内の照明の光が穴からもれ出して、別の表情が楽しめます。
壁はともかく、屋根は瓦葺きのように見えました。どうやって穴を開けたのでしょうか。

中島伽耶子〈日本〉『あかるい家 Bright house』 作品No.25/正院エリア/飯塚の旧事務所
今回の芸術祭の目玉のひとつが、小学校の体育館を改修した、スズ・シアター・ミュージアムです。珠洲市内の家々に眠っていた生活用具を集め、民俗・人類学的な視点で展示紹介するとともに、アーティストたちはそれらを用いて、珠洲の歴史や風景、風土をテーマに作品を制作しました。
さまざまな民具が置かれ混沌とした会場は、芝居小屋のような雰囲気です。階段上のエリアには観覧席があり、時折、光と音の演出も行われます。ここを見るだけでも、奥能登まで足を運んだ甲斐があると思わせる、密度が濃い施設でした。

スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」 作品No.2/大谷エリア/旧西部小学校体育館

スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」 作品No.2/大谷エリア/旧西部小学校体育館

スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」 作品No.2/大谷エリア/旧西部小学校体育館
しばしばメディアに掲載されているのが、こちらの塩田千春の作品。前回の芸術祭で展示され、今回も人気を集めていました。
珠洲市では、現在でも日本で唯一、揚浜式塩田で塩をつくっています。作家は、揚浜式塩田で用いる砂を運ぶのに使われた砂取舟から、空間いっぱいに赤い糸を張り巡らせました。
地元の方に聞いたところ「アートは分からないけど、塩田さんの作品には圧倒された」と、とても嬉しそうに話してくれました。

塩田千春〈日本/ドイツ〉『時を運ぶ船』 作品No.1/大谷エリア/旧清水保育所
レポート第2弾はここまで。こちらも、動画をまとめていますので、ぜひご覧ください。
[ 取材・撮影・文:M.F. / 2021年10月16日~18日 ]
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その1)
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その2)
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その3)
読者レポーター募集中!あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?