緊急事態宣言が開け、ワクチン接種も進んだ今日この頃。この期を逃すわけにはいかない、と、予定から一年遅れて開催となった「奥能登国際芸術祭2020+」に出かけてきました。
会場は金沢からレンタカーで約2時間の珠洲市。珠洲市内で2泊し、全46作品(参加アーティストは全53組、うち新作47組)を鑑賞してきました。
気になった作品を、鑑賞した順にご紹介します。
芸術祭のインフォメーションセンター「さいはてのキャバレー」から出発しました。市内各所にある“のぼり”が、作品の目印です。
まずは、金沢美術工芸大学の有志[スズプロ]から。珠洲市の中心地にある屋敷に、波と手のひらをモチーフにした、巨大な木彫をつくりました。靴を脱いで、彫刻の中に上がる?入る?こともできます。
この屋敷には前回の芸術祭(2017年)から発表されている作品もあり、屋敷全体がインスタレーション作品ともいえます。「奥能登曼荼羅」と「いえの木」は圧巻です。
金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]《いのりを漕ぐ》 作品No.30/飯田エリア/旧八木家
金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]《奥能登曼荼羅》
金沢美術工芸大学アートプロジェクトチーム[スズプロ]《いえの木》
続いて、漆喰が塗られた真っ白な床に並ぶ、小さなオブジェ。水をすくう人の手をかたどったもので、手のモデルは作品周辺で暮らす人たちです。
水をすくっているフォルムですが、表現されているのは手のひらではなく、手の甲。凹凸が反転するのは、中谷ミチコの作品の特徴でもあります。静謐でありながら、あたたかな雰囲気も漂う作品です。
中谷ミチコ《すくう、すくう、すくう》 作品No.31/飯田エリア/スズ交通 待合所2F
こちらは、数年前まで使われていた旧図書館に設置された作品。空っぽの本棚が残る室内に入ると、楽器の音が聞こえてきます。既存の空調設備を利用し、排出される風で、リコーダーやハーモニカを鳴らす仕組みです。
無人になった図書館に響く音はユーモラスですが、ちょっと恐ろしさも感じました。
今尾拓真《work with #8 (旧珠洲市立中央図書館空調設備)》 作品No.29/飯田エリア/旧中央図書館
続いて、旧小学校のグラウンドに吊り下げられた、切り込みを入れたステンレスの鏡面板。鏡面には周辺の景色が映り込み、不思議な風景が宙に浮かびます。
旧グラウンドには、立方体のフレームにひとつずつ鏡面板が設置されていますが、屋根があるところに整然と吊るされた作品のほうが印象に残りました。
四方謙一〈日本〉『Gravity/この地を見つめる』 作品No.42/若山エリア/旧大坊小学校グラウンド
こちらは、旧のと鉄道の廃駅を郵便局に見立て、絵ハガキとSNSによるゆったりとしたコミュニケーションを提案した作品です。
構内とホームに置かれた半透明の猿のオブジェは、スマホに没頭している私たちを揶揄したものですが、多くの人がこの猿をスマホで撮影しているのは皮肉にも思えます。
ちなみに、のと鉄道能登線は2005年に廃止されました。今回の芸術祭ではあちこちの旧鉄道施設に作品が展示されています。
ディラン・カク[郭達]〈香港〉『😂』 作品No.39/宝立エリア/旧鵜飼駅
空き倉庫の二階から飛び出しているのは、この倉庫で保管されていた漁網です。漁網は建物全体を覆っているだけでなく、内部にも網を用いた作品があります。
作者の佐藤貢は、自分のところにたどり着いた「漂流物」を用いて作品制作をしている、との事。この作品のように、与えられた空間を上手く利用した作品が多いのは、この芸術祭の特徴といえます。
『網の小屋』佐藤貢〈日本〉 作品No.38/宝立エリア/春日野の蔵
こちらも、旧のと鉄道に展示された作品。旧上戸駅の駅舎のシルエットをなぞった骨組みの構造物が、駅舎の上部に角度を変えて重なっています。
骨組みだけなので日中はあまり目立ちませんが、夜になるとその印象は一転。青白く光るさまは、とても美しく幻想的です。
作者は、ヨコハマトリエンナーレ2020のアーティスティック・ディレクターを務めたラックス・メディア・コレクティブです。
ラックス・メディア・コレクティブ〈インド〉『うつしみ』 作品No.36/上戸エリア/旧上戸駅
ラックス・メディア・コレクティブ〈インド〉『うつしみ』 作品No.36/上戸エリア/旧上戸駅
ボリュームたっぷりの芸術祭なので、レポートは3回に分けてご紹介します。紹介できなかった作品も含めて、動画も3回に分けてご紹介します。
[ 取材・撮影・文:M.F. / 2021年10月16日~18日 ]
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その1)
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その2)
→ 奥能登国際芸術祭2020+(レポート その3)
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