『エヴァンゲリオン』シリーズや『シン・ゴジラ』などの監督/総監督作品で知られる映像作家の庵野秀明(1960-)。最新作の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は興行収入が100億円を突破し、華々しい活躍を続けています。
庵野が子供の頃に夢中になったアニメや特撮の資料や、貴重な原画などで、庵野の世界を包括的に紹介する展覧会が、国立新美術館で開催中です。
国立新美術館「庵野秀明展」会場入口
展覧会は「庵野秀明をつくったもの」「庵野秀明がつくったもの」「そして、これからつくるもの」という3つのコンセプトによる構成。時代順に進みます。
庵野秀明は1960年、山口県宇部市生まれ。ちょうどこの年にテレビのカラー放送が始まりました。
当時の子供達は、誰もが「テレビまんが」と呼ばれたアニメや特撮とともに育ちました。会場には、庵野が幼少期から大学時代まで傾倒したアニメ、特撮、漫画作品の立体造形物などがずらり。これらが庵野の創作の原点といえます。
第1章「原点、或いは呪縛」
絵を描くことが好きだった庵野は、高校で美術部の部長を務めるとともに、映像制作にも興味を待ち、2年生の時に8ミリフィルムの機材を購入します。
庵野の才能が注目されるようになったのは、大阪芸術大学在学時からです。大阪で開催された第20回日本SF大会「DAICON III」のオープニングアニメーション(1981)を、庵野はふたりの友人と制作。アマチュアとは思えないクオリティで、関係者の度肝を抜きました。
第2章「夢中、或いは我儘」 『DAICON III オープニングアニメーション』(1981)
会場で作品を見た関係者から声がかかった庵野は『超時空要塞マクロス』(1982)にアニメーターとして参加。上京後には『風の谷のナウシカ』(1984)で巨神兵のシークエンスを担当します。
総監督を務めた『ふしぎの海のナディア』(1990)は、当初の企画内容をSFやエンターテイメント色の強い作品に改訂して、大成功しました。
第2章「夢中、或いは我儘」 『ふしぎの海のナディア』(1990)
漫画原作ではなく、オリジナル企画のTVシリーズとして1995年に始動したのが『新世紀エヴァンゲリオン』です。魅力的なキャラクター、スタイリッシュなビジュアル、深みのあるストーリーは、従来のアニメファン以外の層も取り込み、社会現象といえるブームを巻き起こしました。
第3章「挑戦、或いは逃避」
『エヴァ』でアニメによる映像表現をやり尽くした庵野は、実写映画に乗り出します。
『キューティーハニー』(2004)では、特撮作品でありながらアニメ手法と特撮映像の技術を融合。「特撮映像への恩返し」という思いで総監督を引き受けた『シン・ゴジラ』(2016)は、興行収入82億円というシリーズ最高の大ヒットとなりました。
第3章「挑戦、或いは逃避」 『シン・ゴジラ』(2016)
またその間には、特撮映画で使われたミニチュア類が廃棄されている現状を憂い、企画展覧会「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」を開催。東京都現代美術館での展覧会を皮切りに全国を巡回して、各地で反響を呼びました。
第3章「挑戦、或いは逃避」 『巨神兵東京に現る』(2012)
そして、中断していた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作を再開します。
制作には、俳優が実演したモーションキャプチャーのデータを用いたり、舞台となる場所をミニチュアセットで作って検討するなど、実写制作から得た経験も導入しています。
第3章「挑戦、或いは逃避」 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』第3村ミニチュアセット
庵野は現在、少年時代から憧れていた作品の新作映画である『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』の制作に関わっています。
『シン・ウルトラマン』では、ウルトラマンをデザインした成田亨の思いに寄り添い「眼に覗き穴を入れない」「ファスナーに伴う背鰭を付けない」「カラータイマーを付けない」などでデザイン。斎藤工さんや長澤まさみさんの主演が発表されています(公開日は未定)。
一方の『シン・仮面ライダー』は、主演の本郷猛/仮面ライダー役は池松壮亮さん、ヒロインの緑川ルリ子役は浜辺美波さん。2023年3月の公開予定です。
第4章「憧憬、そして再生」 『シン・ウルトラマン』
展覧会の最後は、庵野が関わっているアニメや特撮の技術や文化の保存、啓蒙、継承活動について。
2017年には、自身が理事長となって特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)を設立。2020年には円谷英二の出身地である福島県須賀川市に「須賀川特撮アーカイブセンター」がオープンしました。
また映像作りの未来を見据え、「アニメ(ーター)見本市」の開催や、背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」、CGアニメーションの「プロジェクトスタジオQ」の設立にも尽力しています。
第5章「感謝、そして報恩」
ウルトラマン、仮面ライダー、ジャンポーグエース、スペクトルマン、ミラーマンなど、第1章に並ぶのは、私を含めた中年以降の人たちにとって、懐かしいものばかりです。
ほとんどの人が年齢を重ねるなかで、これらの「子供向け」から距離を置くなか、その衝撃と感動を忘れることなく待ち続けたのが庵野秀明でした。
TV番組でも紹介された、身を削るような創作スタイルを見ると、「次回作が楽しみ」などと軽々に言えませんが、やはり『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』が待ち遠しいです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年9月30日 ]