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    レポート
    Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる
    東京都美術館 | 東京都
    自らを取巻く障“壁”から、展望を可能にする“橋”へ変えたつくり手
    国籍や年齢、経歴がそれぞれ異なるアーティスト5名によるアンサンブル
    「よりよく生きる」ための原動力として制作された魅力あふれる作品

    東勝吉、増山たづ子、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田、ズビニェク・セカル、ジョナス・メカス。国籍や年齢、経歴の異なる5名のアーティストを紹介する展覧会が開催中です。

    展覧会のタイトル「Walls & Bridges」は、自らを取巻く障"壁"に対して展望を可能にする"橋"へと変えてきたことを意味し、5名のアーティスト情熱を感じられる絵画や彫刻、写真、映像を紹介していきます。



     


    まず紹介するのは、リトアニア出身のジョナス・メカス(1922-2019)。反ナチ活動により強制収容所に収監され、戦後はニューヨークへ亡命。英語も話せない中、貧困と孤独な生活を送っていたメカスの表現手段は、16ミリの映画用カメラでした。メカスの撮影にはシナリオはなく、身近な家族や友人たちにカメラを向けていきます。



    ジョナス・メカスによる作品


    借金して購入したカメラ「ボレックス」は重量もあるため、取り扱いが難しい機材です。普通の作品では“失敗”といえる画面の点滅や手振れが、メカスの作品には記憶を揺さぶる必要不可欠な要素になっています。



    ジョナス・メカスによる作品


    2人目は、増山たづ子(1917-2006)による写真の作品。岐阜県の旧徳山村(現:揖斐川町)の農家の主婦だった増山。ダムの建設のため水没することが決定した徳山村の様子を、60歳から28年間にわたり撮影し続けました。



    増山たづ子による作品


    写真に写るのは、農作業をする女性たちやこども、初詣や盆踊りなどの行事など。撮影総数は10万カットにも及び、老若男女問わず誰もが自然な笑みを浮かべています。

    2006年、88歳で増山が永眠したその年にダムの試験灌水が行われ村は水没しましたが、膨大な写真からは今でも熱い眼差しを感じさせます。



    増山たづ子による作品


    チェコスロバキア生まれのズビニェク・セカル(1923-1998)も反ナチス運動により18歳から4年間強制収容所で過ごします。戦後は語学の才能を生かして翻訳家として生活をした後、40歳過ぎから針材や廃棄されたものを使用した彫刻を制作します。



    ズビニェク・セカルによる作品 / (画面中央)シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田《シエナの聖カタリナ像とその生涯の浮彫り》


    60歳を過ぎた頃から、箱型や格子状の作品を制作。強制収容所の体験を語ることはほとんどなかったセカルが、常に死と隣り合わせの想像を絶する体験を箱に収めたとも感じさせる作品です。



    ズビニェク・セカル《十字架》制作年不詳(1970年代半ば以降)個人蔵


    セカルと同じ空間で展示されているのは、シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田(1934-2000)。彫刻家を志す保田春彦と結婚し、日本を拠点に移して制作を行ったシルヴィア。敬虔なクリスチャンであったことから、キリスト教から採られたブロンズ像、聖カタリナや聖ドミニコを制作します。

    家族が寝静まってから限られたスペースで制作を行っていたシルヴィアは、完成作品が多くありません。今回展示された素描のコラージュは、夫の保田春彦がスケッチブックや紙片を整理して美術館に寄贈したものです。



    シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田《家族の肖像》1970-90年代 神奈川県立近代美術館


    最後に紹介するのは、83歳から本格的に絵筆を握った東勝吉(1908-2007)。老人ホームで余生を送っていた東が水彩絵具を贈られたことをきっかけに、大分・湯布院の風景を描き始めます。

    若い頃から木こりの仕事をしていたため美術に親しむ習慣はなかった東ですが、周囲が目を見張る熱意と集中力で作品を制作しました。



    東勝吉による作品


    大胆にフォルムを省略しつつ繊細に描かれた風景画は、99歳で亡くなるまでの16年間で100余点にもなりました。会場には亡くなる一年前、98歳の時に描かれた自画像も展示されています。



    東勝吉による作品


    異なる背景をもつ5人ですが、展覧会を通してアートがそれぞれにとって如何に必要不可欠な創造行為であったのかが分かります。 クリエーション(creation)とイマジネーション(imagination)をテーマとした今回の展覧会。2つの「そうぞう」が重なり、アートによる様々な可能性を感じることができそうです。


    [ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年7月21日 ]

    ジョナス・メカスによる作品
    シルヴィア・ミニオ=パルウエルロ・保田《シエナの聖カタリナ像とその生涯の浮彫り》
    東勝吉が98歳の時にかいた自画像
    会場
    東京都美術館
    会期
    2021年7月22日(木)〜10月9日(土)
    会期終了
    開館時間
    9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
    休館日
    月曜日、9月21日(火) ※ただし、7月26日(月)、8月2日(月)、8月9日(月・休)、8月30日(月)、9月20日(月・祝)は開室
    住所
    〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
    電話 03-3823-6921
    公式サイト https://www.tobikan.jp/wallsbridges/
    料金
    当日券 | 一般 800円 / 65歳以上 500円
    展覧会詳細 「Walls & Bridges 世界にふれる、世界を生きる」 詳細情報
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