今回で17回目を迎えるMOTアニュアルでは、若手アーティストの活動から見えてくる現代美術の潮流を紹介します。若手アーティスト3名の新作を含めた作品が展示されています。
展覧会入口
潘逸舟は1987年上海生まれ、東京在住。昨年の日産アートアワードのグランプリ受賞者です。 9歳の頃に上海から青森に移住した時の自身の経験をもとにして、海をテーマに2010年以降作成した作品7点が展示されています。
《人間が領土になるとき》2016年、インクジェットプリント
潘逸舟は自身の身体を使ってパフォーマンスを行い、それを記録します。海という誰もいない風景の中に自分を入れて接続できる可能性を映像の中で試みました。パフォーマンスは、自分が存在する場所として投影するために行われます。海は人間としては住むことが出来ない場所で、眺める場所という気付きが映像を作るきっかけになりました。
《戻る場所》(6’51”)2011年、シングルチャンネル・ビデオ
潘逸舟の作品は、壁に立てかけられ、まるで美術館でのディスプレイを考える際にどこへ配置しようかと試し置きをしている状態が今回の展示方法として採用されました。この7点の作品の水平線は、150㎝で統一され、作品は道路で使用するコンクリートの台の上で浮かされています。
右から《not ocean》(15’13”)2015年、《波を掃除する人々》(18’31”)2018年、《1本の紐》(5’54”)2012年、《波の収穫》(6’45”)2021年、
小杉大介は、1984年東京生まれ、法律を勉強し2009年まで日本で勤務後ノルウェーのオスロ国立芸術大学で初めて芸術を学びました。現在オスロ在住です。今回は記憶と現実と想像の境界の淵を彷徨う内的な痛みの伝達可能性を問う作品2点の展示です。
《すべて過ぎる前に忘れて》は、小杉大介の祖母の記憶をもとに作成されたトラウマについての作品です。祖母の個人的なトラウマとなった暴力現場の記録とどのように共存しているのかを暴力を用いずに映像化しました。
《すべて過ぎる前に忘れて》(15’21”) 2021年、チャンネル・ビデオ、サウンド
《異なる力点》は、病を患った小杉大介の父が演出を担い、舞踏家の岩下徹が父の役を演じた協働作品です。父は、2017年に脳疾患のためバランス感覚を徐々に失っていく病を患いました。元ボディビルダーであり、建築士として仕事をしてきた父は、身体に対して効率的に考える性質でした。しかし、そうしたスポーツ的な考え方では病の動きが説明できない状況に対面しました。
この作品は、当初は父と岩下氏の会話によるドキュメンタリーを撮るつもりでした。しかし、これまで病に対してネガティブなイメージで説明していた父が、ポジティブに捉えることができる様になったことから会話によるドキュメンタリーは取りやめ、協働作品として作成されました。
《異なる力点》(49’40”) 2019年、チャンネル・ビデオ、サウンド
マヤ・ワタナベは1983年ペルーのリマ生まれ、アムステルダム在住です。ペルーでは、1980-2000年まで内戦が継続し政治的混乱に陥り、7万人の犠牲者を出しました。真実和解委員会はどこまで暴力が及んだかを定めようとしていますが、20年経過した今でもまだ全被害は掴めず、現在でも16,000人が行方不明で、6,000もの集団墓地が未発掘のままです。
《境界状態》は、行方不明者と死亡者の間で法的に身分が保留されたままの曖昧な境界を捉えた20年以上戻ってこない家族のための作品です。
《境界状態》(65’00”) 2019年、チャンネル・ビデオ・インスタレーション、サウンド
《銃弾》は、集団墓地にある銃弾を受けた痕跡のある頭蓋骨の中にカメラを入れて撮影した作品です。内戦中に約21,000人が殺害され、その多くは銃器による法を逸脱した行為でした。
殺害された遺体は、隠されて白骨遺体となりました。そうした身元を特定できない多くの遺体には「氏名不詳(N.N)」と行方不明番号が付けて保管され、裁判により法的に誰の骨かが判明する事を待っています。
《銃弾》(9’00”) 2021年、チャンネル・ビデオ・インスタレーション、サウンド
《風景Ⅱ》は、3面のビデオ・インスタレーションとして発表された一部です。360度回転し続ける映像に映し出されているのは、リマによく見られる風景です。砂漠の中に廃棄物から煙が立ち上る荒れ果てた地には、過去の痕跡しか残っていません。
《風景Ⅱ》(15’00”) 2014年、チャンネル・ビデオ・インスタレーション、サウンド
写真を撮った時、思わぬところに鏡があり偶然に自分の姿がその鏡に映り込んでいました。見ようとして見る鏡の中の自分と、他人がいつも見ている自分は少し違う事に気付かされます。
この展覧会は、そんな少しの視点の違いから、他のもののように違って見える感覚が味わえました。
[ 取材・撮影・文:法乙 / 2021年7月16日 ]
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