18世紀初頭、推定100万人もの人口を擁する都市だった江戸。世界有数の大都市だった活気溢れる江戸の魅力を紹介する展覧会が、東京都江戸東京博物館ではじまりました。
展覧会タイトルの「大江戸」は、活発で明るい江戸の一面に誘うためにつけられたもの。武士や町人の年中行事や儀礼など、ハレ舞台での華やかな品々を紹介します。
(右)色々威胴丸具足 1613年 王立武具博物館(イギリス)
1章は武士たちの表道具や調度品を展示した「式正」。
徳川家康が江戸に幕府を開いて以来、江戸城の周囲には旗本や御家人、大名が集結しました。戦乱が終息したとこで、身分の象徴である具足や刀剣などの表道具は、戦場とは異なり儀礼の場で用いられるようになります。“武器”としてではなく、“武家の権威”を表現するため装飾を添えたものに役割が変わります。
「大江戸の華 ー 武家の儀礼と商家の祭 ー」展覧会場
参勤交代などの長い道中に持ち歩く際に、刀を保護する目的でつくられた刀筒。家紋が散りばめられ甘美な装飾が施された刀筒は、江戸時代に制作されるようになったということからも、道具の役割の変化を感じられます。
(手前)刀 無銘 伝来国行 付 黒塗笛巻塗鞘打刀拵 梨子地星梅鉢紋散木目文刀筒 刀:鎌倉時代中期 拵・刀筒:江戸時代後期 東京都江戸東京博物館
2章「年中行事」では、町人のたち暮らしにおける“ハレ”の舞台を紹介。
インフラや仕組みが整えられた江戸の街は、全国から様々なものが集まり、流通・経済の中心地として大きく発展をします。中には、いくつもの店舗を構え手広く商業活動を展開した“大店”と呼ばれる巨大な商人が現れます。会場には、江戸の大店・鹿嶋屋東店が屋敷神として祀られていた富永稲荷の社殿や獅子頭、雛道具を展示します。
「大江戸の華 ー 武家の儀礼と商家の祭 ー」展覧会場
色鮮やかな青龍、白虎、朱雀、玄亀の四神像は、富永稲荷の初午の祭礼で用いたとされているもの。古代の中国で生まれた四神の信仰は、日本にも伝わり、江戸時代にも信仰は残り祭礼に登場しました。
稲荷の祭りは年に数回ありますが、2月の初午の祭礼は特に重要とされ、四神旗は約2メートルにもなる豪華なものです。
四神旗 弘化5(1848)年2月 東京都江戸東京博物館
富永稲荷の神前に奉納する獅子頭は、招福や疫病退治を祈願し、雄雌一対になっています。角のある方が雄、丸井宝珠の付いた方が雌です。表面は漆塗りで、宝珠や金があしらわれた獅子頭の奉納には、多くの人々が集まり賑やかな様子が想像できます。
獅子頭 安政5(1858)年3月 東京都江戸東京博物館
武家社会や町人層にも広がり、春の年中行事となったのが、雛祭りです。当時は、娘の輿入れの際に婚礼調度の所蔵具一式を縮小つくりで揃えることが通例でした。 大名家とくらべても見劣りしない豪華な「牡丹唐草蒔絵雛道具」は、既存数の少ない町人の雛道具の中でも状態の良い貴重な一品です。
牡丹唐草蒔絵雛道具 文政10(1827)年 東京都江戸東京博物館
身分制度が徹底されていた江戸時代、家柄や性別により将来の進むべき道や背負う役割が異なりました。女性が担った大きな役割は、次の世代へ繋ぐこと。3章では、江戸の繁栄を影から支えた女性の儀礼に用いられた道具や装いを紹介します。
会場中央には、現在は4挺しか存在が確認されていない梨子地の女乗物。黒漆塗りが多い女乗物の中、唐松・若松・梅花が幾何学的に配置され、源氏物語を題材とした内装画です。葵紋があることから5代将軍徳川綱吉の養女・八重姫が所有していたものと推定されています。
梨子地葵紋散松菱梅花唐草文様蒔絵女乗物 元禄11(1698)年 東京都江戸東京博物館 (展示期間:7月10日~8月9日)
武家女性が使用した打掛や、夏の正装の帷子も紹介します。注目は、茶屋染が使われた帷子。染料に藍を使う茶屋染は、白く残す部分に防染糊を置いた後、藍を浸染または引き染していきます。現存の資料が少なく希少な作品です。
こちらは8月9日までの展示。会期中2回の展示替えが行われ、様々な女性の装いを楽しむことができます。
(左から)白綸子地七宝繋松竹梅鶴丸模様打掛 19世紀 東京都江戸東京博物館 / 白麻地御殿模様茶屋染帷子 18世紀後半~19世紀前半 東京都江戸東京博物館(展示期間:7月10日~8月9日)
エピローグでは、“金”と“銀”の2領の具足を展示。 右側の“金”の具足は、アメリカ・ミネアポリス美術館から里帰りしたもの。所用者が兄弟関係にあったと推測されている紀伊家伝来の具足2領の具足が、はじめて対面した姿を見ることができます。
(左から)金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足 江戸時代 ミネアポリス美術館、エセル・モリソン・ヴァン・ダーリップ基金/所蔵 / 銀小札変り袖白糸威丸胴具足 江戸時代 東京都江戸東京博物館
明るく豊かな江戸の人々の“ハレ”の舞台を通して、明日への活力を感じさせる展覧会。 撮影のできる作品も多く、凝った会場のつくりと一緒に記念に残すことができそうです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2021年7月9日 ]