兵庫県立美術館で、「コシノヒロコ展」がはじまりました。 デザイナーとして長年第一線で活躍してきたコシノヒロコさん。今回はファッションデザイナーとしての代表作約250点に加え、絵画約200点とを合わせた大規模な展示です。
舞台となる兵庫県立美術館は、安藤忠雄氏の設計による建築です。展覧会をするなら「絶対、この場所で」というコシノさんの強い希望で実現しました。
コシノさんは自宅も安藤氏の設計で建て、「コンクリートの無機質な灰色の中でものを考え、発想してきた」と、その理由を語ります。
エントランスの前で私たちを出迎えるのは20体のマネキン。歴代コレクションの代表作を身にまとっています。
展覧会は全部で14のセクションにわかれていて、それぞれ《フワフワ》《ペチャクチャ》《ルンルン》‥といった擬音語、擬態語で名づけられています。
高校時代までは画家をめざし、今も精力的に絵画制作を手がけるコシノさん。 下はその作品のひとつです。
コシノヒロコ《WORK#1078》2013年
黒地に金色、青い鳥。 19世紀末の画家クリムトの作品にインスピレーションを得て描いたものだそうです。
下は墨絵を中心とする《ビュー》の部屋。(なぜ《ビュー》なのかというと、「いきを とめて ビューといっきに えがくの」‥というところから来ているようです)
墨絵と、羊毛のような生地でできたドレスの組み合わせ。 絵と服のコーディネートもコシノさん自身が手がけています。展覧会を担当した学芸員さんいわく、その仕事ぶりは「即断即決」とのこと。
下の写真は、足を踏み入れた瞬間「うわっ」と声を上げてしまった部屋。
頭のてっぺんからつま先までスキなくコーディネートするHIROKO KOSHINO歴代コレクションより、選りすぐりのタイツです。
かと思えば、おとぎ話の世界に入り込んでしまうような空間も。
絵がプロジェクションマッピングで壁に投影されています。昨年のホームステイ期間中に描かれたものだそう。
下は《ワクワク ドキドキ》の部屋。大広間のような空間に、ゆったりとしたテンポの曲が流れています。
手前のマネキンは指揮棒を手にしていて、楽団員たちを前に指揮しているという趣向。 展示空間に足を踏み入れるたびに、驚きがあります。
下は、その楽団員(?)の中の一人。
生地の柄や立体的な感じが、歌舞伎の衣装を連想させます。コシノさんは幼少期より歌舞伎や文楽に親しんでいたのだとか。存在感のある生地に見入ってしまいます。
これだけ多彩な作品が一堂に会する展示を見ていると、アートとファッションの間に境目などなく、すべてが「コシノヒロコ」という作品なのだと感じさせられます。
「展覧会への思いがコロナですっかり変化した」
「コシノヒロコ展」の企画がはじまったのは5年前。 東京オリンピックが開かれる2020年の翌年、2021年4月に開催すると最初から決めていたそうです。
ところが、5年前には考えられなかったことが起こりました。
コシノヒロコさん
「自分の作品を見てもらいたい」「子どもたち、未来の世代へバトンをわたしたい」という思いはコロナの前と変わりませんが、「コロナによって過酷な生活、精神的ダメージを強いられている人たちに元気になってもらいたい」、「見た人が新しい希望を持てる展覧会にする」のが大きな趣旨となったそうです。表現のあり方を考えさせられた、とも。
笑い、驚き、まじまじと見入り、感心し、また笑い、‥展示会場をまわり、本当にコシノさんの言葉通りの展覧会だと感じます。一人でも多くの方が、このエネルギーに触れられることを願っています。
[ 取材・撮影・文:tomokoy / 2021年4月7日 ]
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