展示風景
陶芸、焼き物という言葉からイメージするものとはかけ離れた、言葉で説明するのが難しいものたちが並んでいます。何だろう?そう思いながらも、観ている私の顔は自然とほころんでいくのでした。
《痕跡の入れ物》1975年
兵庫陶芸美術館では、若手作家への刺激を与えるとともに、現代陶芸の今を紹介することを目的とした「著名作家招聘事業」を実施しています。15回目となる今年は造形作家・植松永次を迎え、「植松永次展 土と火」が開催されています。
植松は当初版画やドローイングなど学びますが、作品を通して自己を表現することよりも、もっと大切なもの、根源的なものは何かを探り、土という素材にたどり着きます。
そして土そのものの表情を引き出すことをテーマに制作を始めていきました。

《祭》1982年

《芽の出る所》2008年
《芽の出る所》は特に印象に残った作品の一つです。「色違いのソーセージがニョキニョキと生えてる!」と感想を言った子どもがいたとか。
これは、焼成済の円柱状のパーツを磁土に埋め、粉末状の土をふるい掛けて焼き上げています。土台の磁土と一度焼かれている円柱の収縮率の違いを利用した作品で、まさに土の中から芽を出しているかのような仕上がりです。見ただけではその過程を想像することは全くできませんでした。
これに限らず、子どもの土遊びに見えてもおかしくないような作品たちは、深い知識と技術があるからこそ成り立っていることを知り、心の動きが加速します。
素朴にみえて、前衛的。飄々とみえて、芯が太い。これが植松作品の魅力であり、彼自身がそういう人なのではないかとも思えてきます。陶芸、彫刻という枠でくくりきれない自由さと強さが、作品それぞれに備わっています。

《下駄箱の中の宝物》2020年

《森の四季》(一部)2020年
壁に広がる《森の四季》、床に点在する《森のダンス》を前にして不思議と気持ちが落ち着いていきます。「土という自然と対話し、作品を生み出していく」初期から一貫している植松の姿勢や、土という自然を受け入れ続けてきた彼の包容力のようなものが大きな森となり、私の心身はどうやらすっぽりとハマってしまったようです。
床にいる彼ら(作品)の横にしゃがみ込み、無心になる自分がいるのでした。

兵庫陶芸美術館 外観一部
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2020年12月17日 ]
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