
昭和の国民的画家と謳われ、風景画に定評のある東山魁夷。魁夷を中心に近代・現代の画家による「四季」と「風景」をテーマとした展覧会が山種美術館で開催されています。
波が迫る《満ち来る潮》
日本のみならず、世界を旅しながら風景をスケッチし作品に残した東山魁夷。館内では、各地の風景を目にすることができます。その中で、ひときわ目に止まるのが幅9mの《満ち来る潮》

東山魁夷《満ち来る潮》1970(昭和45)年 紙本・彩色 山種美術館
皇居宮殿を飾っていた魁夷の壁画《朝明の潮》を見た初代館長の山﨑種二。多くの人々が鑑賞できるようにと、同趣の作品制作を依頼したものです。
魁夷は思案の末、新宮殿のゆったりした波に対し、岩に波がぶつかりしぶきを上げる動的な構図を考え、依頼を受けることにしました。
ガラスケース内には波のスケッチや小下図が展示。皇居宮殿《朝明の潮》の写真も、作品の左横に掲げてあります。海に囲まれた日本の風景。荒々しい波音が聞こえてくるようです。

東山魁夷《満ち来る潮》1970(昭和45)年 紙本・彩色 山種美術館
正面も迫力満点ですが、両サイドに立つと、押し寄せる波の力に飲み込まれそう。緑青・群青を基調に金やプラチナの箔・砂子は、新宮殿と同じ材料です。見る角度によって変化する輝き。大胆な波と繊細な波しぶきが迫ります。
《京洛四季》4点一挙公開
川端康成が東山魁夷へ語った言葉。
「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」これをきっかけに描いた《京洛四季》
18点のうち、山種美術館には、春夏秋冬、4点すべてがそろっています。山種美術館には、四季の作品を揃えておきたかったという魁夷の意向がありました。20年かけて、連作4点が収められ、今回、4年ぶりに一挙公開です。

東山 魁夷 《年暮る》1968(昭和 43)年 紙本・彩色 山種美術館
年末に向けてタイムリーな《年暮る》 東山ブルーと言われる群青を基調とした年の瀬の京都市街。同じ高さの町屋の屋根が連なり、雪が降り積もります。空気を含む綿のような雪から、スローモーションのようにゆっくり流れる時間を感じました。
音なき音に包まれた静寂の広がり。穏やかな大晦日。古きよき京都、日本が思い出されました。

東山魁夷《秋彩》1986(昭和61)年 紙本・彩色 山種美術館
《秋彩》は、開館20周年記念展で出品された小倉山の紅葉。東山ブルーを背景に、赤と黄色のコントラスト。華やかさがより引き立ちます。昭和61年、この作品によって、四季4点がそろいました。
近代・現代画家が描く「四季」

展示会場風景 画面左:菱田春草《月四題》 1909-10(明治42-43)絹本・墨画淡彩 山種美術館
四季を、季節の草花と月を主題に描いた菱田春草の《月四題》 墨のモノクームな世界と思いきや、ほんのり着色がほどこされています。
第二会場では、千住博の《四季》が4幅並びます。季節に合わせた表装、そして画面が上下2つに分かれていることにも注目。上部が空、下部が海という斬新な表装で、空には月が・・・・

千住博《四季》1989年(平成元年)紙本・彩色 山種美術館
四季を描くことは、伝統的な主題表現で、近代・現代の画家が、チャレンジしています。
4つの季節がそろった日本画を通して、日本の豊かな自然を感じさせられます。それを引き出してきた画家の眼差しにハッとさせられました。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2020年11月25日 ]
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