塩田千春は大阪生まれ。京都精華大学では絵画を学びましたが、オーストラリアからドイツに留学する中で、パフォーマンスやインスタレーションなど、多彩な表現を手掛けるようになりました。
展覧会で作品を発表する事が大好き、という塩田。これまでに300本の展覧会に参加しています。個性的な活動が日本で知られるようになったのは、2001年の横浜トリエンナーレから。「DOMANI・明日展 2013」での展示は、この項でもご紹介しました。
本展は、その活動の集大成といえる展覧会です。1990年代の作品から、近況を踏まえてかたちになった最新作まで、過去25年分の作品が並びます。
作品展示は、美術館に至るエスカレーターの吹抜け空間から始まります。多数の白い舟が吊り下げられた《どこへ向かって》。舟は塩田さんの作品にしばしば登場するモチーフです。
会場に入って冒頭は《手の中に》。子どもの手で、抽象的なモチーフを守っているような作品。手の造形は、塩田の娘さんの手から型取りしたそうです。
続く空間が、最初の見せ場といえる《不確かな旅》です。白い展示室全体が、フレームの舟から広がる真っ赤な糸で埋め尽くされます。2015年のベネチア・ビエンナーレ日本館での展示より、抽象化されました。
続いて、初期の絵画作品や、自らの身体を使った挑戦的なパフォーマンスなど。2001年の横浜トリエンナーレで注目を集めた、巨大なドレスの作品《皮膚からの記憶》も、写真パネルで紹介されています。
《外在化された身体》は、本展に向けた新作です。自らの腕や足を型取りした身体の部位と、血液や内臓や思わせる赤い皮が吊るされます。実は塩田は、個展が始まる前に、以前患っていた癌が再発。現実のものとして死を強く意識するようになったと言います。
奥に進むと、第2の見せ場である《静けさの中で》。焼け焦げたグランドピアノと観客用の椅子が、こちらは黒い糸で埋め尽くされます。幼少期に隣家が火事になった経験から着想。音が出なくなったピアノから、無数の音が観客に届いています。
《時空の反射》も、黒い糸を用いた作品。黒い糸で覆われた立方体の空間に、二着のドレスが浮かびます。空間は鏡で仕切られているので、見えるのは同じドレスの実像と虚像。ただ、鏡の裏にはもう一着のドレスがあり、虚と実が交錯します。ドレスも塩田の作品にしばしば登場するモチーフです。
美術に詳しくない人でも、圧巻の空間インスタレーションには納得してしまう事、間違いなし。美術に詳しい方はさらに必見。いかにも現代の美術展といった趣なので、将来、この展覧会を見ていないと話に入れなくなります。一部をのぞいて写真撮影も可能です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年6月19日 ]