特異な画業は注目を集め、日本では明治時代から受容されていたルドン。ただ、植物をテーマにしたルドン展は珍しい試みです。
展覧会は8章構成で、第1章「コローの教え、ブレスダンの指導」から。ルドンは遅咲きで39歳でデビュー。初期にはコローによる助言や、版画家のブレスダンに技術を教わり、さまざまな技法を試していきます。
第2章は「人間と樹木」。ルドン作品にしばしば登場する老木。アポロンやオルフェウスなど、空想上の人物の傍らに描かれます。
第3章は「植物学者アルマン・クラヴォー」。ルドンは10代で出会ったクラヴォーに導かれて、肉眼では見えない世界への関心を深めました。
第1章~第3章展覧会を通して最大の注目が、第4章「ドムシー男爵の食堂装飾」。
三菱一号館美術館が所蔵する《グラン・ブーケ(大きな花束)》をはじめ、ドムシー男爵の食堂を飾っていた16点の装飾画が揃いました。
ドムシー男爵は、フランス・ブルゴーニュ地方に居を構えていた美術愛好家。《グラン・ブーケ》のみパステル画で、他の15点はデトランプ(薄くのばした油絵具を広げたうえに、卵や膠を使う技法)で描かれています。
食堂には出入口のほか窓や暖炉があるため、壁画の形状は横長や縦長など様々。配置図によると《グラン・ブーケ》は入って右手の壁面、窓と窓の間に配されていました。
会場では3階と2階に分けて全16点を展示。全点が揃うのは日本で初めてです。
第4章「ドムシー男爵の食堂装飾」第5章は「『黒』に棲まう動植物」。科学やその周辺の理論に特別な関心を抱いていたルドン。ただ、作品のモチーフは定義されていない事が多く、その解釈は鑑賞者側に委ねられます。
第6章は「蝶の夢、草花の無意識、水の眠り」。ルドンはアカデミーでジャン=レオン・ジェロームの教えに不満を持っていましたが、この時代の鍛錬は後年の作品に生かされています。
第7章「再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな」は、花瓶の花に囲まれる華やかな展示室。初期から描かれたモチーフですが、晩年には特に増えました。花瓶に日本の役者が描かれているものもあります。
最後の第8章は「装飾プロジェクト」。前述のドムシー男爵の食堂装飾から、ルドンは個人の装飾画の注文を多く受けるようになります。ルドンが下絵を描いた椅子や衝立、そして4曲の屏風などが展示されています。
第5章~第8章深淵なルドンの世界観は、
三菱一号館美術館の重厚な雰囲気と相性バッチリ。会期は長めですが、お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年2月7日 ]■ルドン-秘密の花園 に関するツイート