桂ゆき(1913~1991)は、ユーモラスで諷刺に満ちた独創的な作品により知られます。油彩画だけではなく、物の質感を生かしたコラージュや立体など、様々な手法を自在に行き来しながら自由な活動を続けました。
桂は、著名な治金学者を父として東京に生まれ、広大な敷地を持つ家で樹齢400年の大樹など豊かな自然に囲まれて育ちます。生来、絵を描くことを好み、高等女学校を卒業後、中村研一らに師事し油絵を学びます。しかしアカデミックな教育に飽き足らず、二科会のアヴァンギャルド洋画研究所で指導を受け、1935年にはコラージュ作品による初個展を開きます。1938年に前衛的なグループ九室会の創立に加わり、戦後は三岸節子らとともに女流画家協会の結成に参加、また日本アヴァンギャルド美術家クラブや岡本太郎らの「夜の会」にも参加します。その後、二科会会員になるとともに国内外の様々な美術展に出品し、色面を構成した抽象的な作品や、紙のしわから目がのぞく不思議な生きモノの風刺的な作品、そしてコルクや布を用いた立体作品など枠にはまらない多様な展開を見せました。制作の一方で、1956年から世界各国を旅して様々な体験をし、卓越したエッセイも著しています。
日本の前衛画家として抜きん出た存在感や、女性として或いはひとりの人間として社会への批判に満ちた視線、独特のユーモア、漫画的な表現やコラージュ技法の独自の展開など、多くの点で興味深い画家といえます。本展覧会では、初期から晩年にわたる作品47点を展示し、桂ゆきの幅広く独創的な世界を紹介します。