ポーランドの国民的作曲家フリデリク・ショパンが、祖国を離れた後、最終的にパリで生涯を過ごすことになったのは、1830年にワルシャワでおこった十一月蜂起と、翌年のその失敗が遠因でした。1795年にポーランドは、国土をロシア、プロイセン、オーストリアに分割占領され、世界地図からその姿を消すことになります。これ以後、祖国の独立を求める蜂起や反乱が繰り返されますが、その実現は1918年の第一世界大戦終結を待たなければなりませんでした。この123年間、国を失った人々が自らのアイデンティティの拠り所としたのが、文学や音楽そして絵画などの芸術であり、言語や宗教を含む広義の文化でした。そしてその中心地として重要な役割を果たしたのが、古都クラクフです。
19世紀後半、ポーランドの歴史や文化的逸話を大きなスケールで描き名声を博したのがヤン・マテイコです。クラクフ美術学校教授を務めた彼のもとからは、数多くの若き芸術家たちが巣立ちます。彼らは、祖国の独立を願いつつ、そこに自らの個人としての心情を結びつけ、象徴性に富み色彩豊かな独自の芸術を、絵画のみならず応用芸術や文学をも含む広い分野で展開しました。〈若きポーランド〉と呼ばれた彼らは、印象派など当時西欧で新しく生まれた芸術の動向を貪欲に吸収し、浮世絵を主とする日本美術を参照する傍ら、地方に残る伝統文化を発見・再解釈しながら、ポーランドの国民芸術の在るべき姿を模索しました。本展では、ヤン・マテイコを前史とし、〈若きポーランド〉が生み出した芸術を包括的に、日本で初めて紹介します。
本展は、クラクフ国立博物館の全面的な協力のもと、ポーランド文化・国家遺産省からの助成を得て開催されます。クラクフ国立博物館を筆頭に、ワルシャワを含む複数の国立博物館さらには多くの個人所蔵家から招来した、マテイコそして〈若きポーランド〉の数多くの代表的絵画作品ならびに版画、家具やテキスタイルなどの工芸品を含む約130点によって、前世紀転換期に花開いたポーランド美術の真髄をご覧いただきます。
(公式サイトより)