久保貞次郎は、児童美術教育の改革や芸術家支援に尽力した美術評論家です。
1959年から跡見学園短期大学において「児童美術」や「美術鑑賞」の授業を担当し、1967年より生活芸術科長、1977年から1985年まで短期大学学長を務め、その魅力的な人柄から、1987年に退職した後も学生たちに慕われ続けました。
東京帝国大学大学院に在学中、久保は日本エスペラント学会の特派使節として訪れた宮崎で杉田秀夫(のちの瑛九)に出会い、親交を育みます。瑛九を通じて同時代の芸術家たちとも知り合い、瑛九らが「デモクラート美術家協会」を結成すると、外部から助力を与えました。1952年には、瑛九や北川民次らとともに「創造美育協会」を設立し、小中学生の創造主義美術教育運動を推進しました。
1956年より展開した「小コレクター運動」では、美術の普及と芸術家支援に努めます。とりわけ、複数制作が可能な「版画」を重視し、作家たちに版画制作を勧め、制作の援助を続けました。久保が見出した芸術家たちの版画は、やがて国際的にも高い評価を獲得していきます。同時に、現代版画に対する久保の貢献も広く認知され、1986年には町田市立国際版画美術館の初代館長に就任しました。
美術評論家、教育者、パトロン、コレクターなど、数多の肩書きをもった久保貞次郎。本展では、その多彩な活動と、彼が支援した芸術家たちとの交流を、版画を中心とする作品とともに紐解きます。
さらに当館では、久保が支援した池田満寿夫の旧蔵作品6点を故・佐藤陽子氏よりご遺贈いただき、本展で初めて公開します。版画家としての池田の代表作であり、作家本人が手元に遺した貴重な諸作品を、あわせてご堪能いただければ幸いです。