《虎図》 日根対山 1863(文久3)年頃 紙本着色 136.5×61.8㎝
対山は、「かつてオランダ人が連れてきたと聞く虎をまだ見ていなかったが、文久3年(1863)に京都の絵師による迫真の虎の絵を見たので、柿邨のために描いた」と賛している。柿邨とは、対山と親交して、パトロンでもあった酒造業「十一屋」当主の野口忠蔵。近江国(現、滋賀県)に本邸を構える野口家は、江戸中期以降、甲府に営業所を設け、幕末から明治にかけて山梨を代表する豪商であった。野口家には、本邸を飾った襖絵や屏風をはじめ、60点以上もの対山作品が所蔵され、現在、多くの作品が山梨県立美術館へ寄贈されている。
虎は、古来、神獣とされてきた。龍と対で描かれる竜虎図が知られるが、江戸時代後期まで日本では虎を見ることはできず、猫をヒントに猛獣化した表現が多かった。また、豹と混同されて、虎が雄、豹が雌として描かれた。対山の描いた虎は、「真を以て似る」すなわち迫真的と着賛していることから実際に虎を見て描いた絵をもとにした可能性があるが、その真偽は不明である。ただし、対山が絵を見たとする同年、大坂で虎の見世物(珍しい動物や話題になった事件、芸道などを見せる興業)が開催されているので、偶然とも思えず、京都の絵師は、実際にこの見世物で虎を見ている可能性は高いであろう。
担当者からのコメント
日根対山は本物の虎を見たことが無かったので、虎を猫っぽく描いています。どこか可愛らしくも感じませんか?
コレクション展にて2022年1月23日(日)まで展示していますので、ぜひ会いに来てください!