海北友松の名が画壇に出たのは、60代になってから。武門だった海北家の再興を目指していたため、画家としては遅咲きですが、その画業は京都の名だたる寺院をはじめ、天皇や宮家にも及ぶなど華々しく、狩野永徳や長谷川等伯とも並び称される実力者です。
本展では、これまではあまり紹介されなかった50代以前の作品も紹介。さらに、友松が多くの障壁画や屏風絵、掛幅を描いた建仁寺の作品など、代表作が続々と続く贅沢な構成です。
会場入口から第7章は豪華絢爛。京都・妙心寺に納めた三双の屏風が揃って展示されています。
《花卉図屏風》《寒山拾得・三酸図屏風》《琴棋書画図屏風》で、いずれも金地濃彩。一般的な屏風絵と比べて25cmほど背が高い事もあり、華やかな雰囲気が強調されます。
珍しい資料として《屏風画料請取状(妙心寺宛)》も展示されています。友松から妙心寺に宛てた領収書で、現在の価格だと三双で約236万円。車を買える人なら手が出そうな、相当なお値打ち価格です。
第7章「横溢する個性 ─ 妙心寺の金碧屏風 ─」一転して、第8章は大迫力。展示室が龍に囲まれています。
龍は友松の十八番。建仁寺には障壁画、北野天満宮や勧修寺には屏風、掛幅も何点か描いています。その名声は隣国の朝鮮まで響いており、朝鮮高官の書状にも賛辞が述べられるほど。ワールドクラスの迫力を堪能してください。
第8章「画龍の名手・友松 ─ 海を渡った名声 ─」見どころが多い展覧会の中でも、特に見逃せない作品は最後に登場。1958(昭和33)年に米国のネルソン・アトキンズ美術館の所蔵となって以来、一度も帰国した事がなかった友松最晩年の傑作《月下渓流図屏風》が、60年ぶりに里帰りしました。
友松の水墨画は、前半期は気迫に溢れていましたが、年齢を重ねるにつれて静かで穏やかな画風に。その境地ともいえるのがこの作品です。朧月に照らされる、雪解けの渓流。詩情豊かな画面、せせらぎの音が微かに聞こえてくるように感じられます。
《月下渓流図屏風》米国 ネルソン・アトキンズ美術館友松作品は16件が重要文化財に指定されていますが、本展ではその全作品が公開されるなど、まさに空前絶後の海北友松展。ただし会期はわずか36日、しかも京都のみです。お見逃しなく。
※会期中に展示替えがあります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2017年4月10日 ]■京都国立博物館 海北友松 に関するツイート