明治維新後、西洋文化の流入とともに、大名や社寺など有力な支持基盤を失った日本の美術工芸は衰退の道を余儀なくされます。そんな状況下においても、京都の工芸を積極的にパトロネージしていたのが三井家。本展で紹介する象彦も、三井家が手厚く庇護した京都の漆器商です。前身である象牙屋が開舗したのが寛文元年(1661年)と、実に創業350年の伝統を有します。
展示室1本展では、象彦歴代のうち六代~八代彦兵衛の時代に制作された蒔絵の優品を紹介する本展。北三井家(総領家)の十代・三井高棟(たかみね)は三井家の中でも最も象彦の蒔絵を愛好し、個人の愛用品、皇室への献上品、三井家の迎賓館・三井家綱町別邸の調度品など、数多くを象彦に発注し、その中には第一級の蒔絵作品が数多く含まれています。
展示室4展示されたものは三井家ならではの贅を尽くしたものばかり。金銀きらめく硯箱や文台、水晶台などが重厚なイメージの三井記念美術館の展示室1・2に並ぶと、緊張感すら漂うようです。中には両替商として大成した三井家にふさわしく、蓋の裏側に本物の小判が象嵌された硯箱など、変わったデザインの逸品も。裏面にも見事な細工が施された作品は、鏡で背面の意匠も見ることができるようになっているものもあります。
月宮殿蒔絵水晶台 (げっきゅうでんまきえすいしょうだい)予算に糸目をつけずに芸術家を支援した三井家と、最高の技術による豪華絢爛な蒔絵で期待に応えた象彦。パトロンと芸術家が作り上げた華麗な漆器の数々は、11月13日まで三井記念美術館でご覧いただけます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年9月28日 ]