性の営みを描いた春画。そもそも性器や性交を絵画や彫刻で表現する事は、古今東西どこでも見られる普遍的な行いですが、日本では江戸時代において浮世絵技術の発展とともに大きく広がり、さまざまな表現が生まれました。
本展は肉筆と版画で、春画の名品を紹介するもの。2013年秋から14年にかけて大英博物館で開催された春画展を踏まえた企画ではありますが、内容は日本独自の構成です(大英博物館が所蔵する作品も出展されています)。
日本における肉筆春画は、平安時代の後期頃から描かれました。土佐派や狩野派などの当時の画壇の中央にいた絵師も春画を手掛けており、狩野派の画手本にも「好色春画之法」という項目が存在するほどです。
本展で展示されている肉筆春画も、背景に金銀箔が撒かれた絵巻など豪華な作品が多数。春画は庶民階級だけでなく、大名クラスの上流階級まで親しまれていた事も良く分かります。
ちなみに、肉筆の春画は掛け軸になっているものもありますが、おしなべて保存状態が良好です。これは、余興の一幕として披露された後に、すぐに仕舞って大事に保管されていたためと考えられています。
一方、版画による春画は、初期は黒一色の「墨摺」からスタート。「紅絵」「紅摺絵」など多色展開が進んだ後に、フルカラーの「錦絵」に至る流れは、一般的な浮世絵版画の歴史と同様です。版画の発展は情報革命そのものといえ、これによって春画も大きく発展していきました。
江戸中期に来日した朝鮮通信使が「昼夜を問わず楽しげに性交を行い、懐中に春画を持ち歩く」と記述するなど、近世までの日本人は性に対してかなり大らかでした。女性にとっても春画は恥ずべきものではなく、幕末に来た外国人に対し、家の夫人が春画を説明しながら見せたたため、外国人の方が戸惑ったという記述も残っています。
明治以降の近代化の中で性への関心はタブー視され、現在に至っています。その流れの中にある私たちにとって、当時と同じような目線で春画を見る事は、まだ難しいかもしれません。大きな試金石といえる展覧会、英断を下した永青文庫には敬意を表したいと思います。後期展もこの項でご紹介する予定です。
後期展の取材レポート →
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[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年9月18日 ]
| | 大英博物館 春画
矢野 明子 (監修, 翻訳), 早川 聞多 (翻訳), 石上 阿希 (翻訳) 小学館 ¥ 27,000 |
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