過去にも「ネオテニー・ジャパン」展(2008~09年)や「マインドフルネス!」展(2012~14年)などの巡回展や、期間限定のアートスペースなどで、その豊富な内容(2012年時点で約2,000点)の一端を公開してきた高橋コレクション。今回は139点を紹介する大規模な展覧会です。
会場入口は草間彌生から。1990年代後半以降の作品で有名な高橋コレクションとしてはやや意外に思えますが、実は高橋氏が20代の頃に憧れの眼差しを向けていたのが「ハプニング」時代の草間彌生。コレクションのきっかけになったアーティストのひとりです。
本展では岡田謙三や井上有一など、1950年代・60年代の作品も紹介。現代美術史の幅を広げ、包括的にコレクションを紹介している事も特徴的です。
会場は草間彌生の作品から
会場を進むと奈良美智や村上隆など、現在の日本を代表する作家が次々に現れます。
90年代から収集活動を本格化した高橋氏。現在ではビッグネームになったアーティストの作品を早い時期から収集しているため、他の現代美術展で作品の所蔵先を見るたびに「これも高橋コレクション?」と驚く事も珍しくありません。
森美術館での個展で49万人もの入館者を集めた会田誠も、高橋氏がいちはやく注目した作家のひとり。《美しい旗(戦争画RETURNS)》《ジューサーミキサー》《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》等々、展覧会でひっぱりだこの人気作品は、いずれも高橋コレクションです。
会田誠の作品は3点展示
本展で久しぶりに展示されたのが、西尾康之《Crash セイラ・マス》。アニメ「機動戦士ガンダム」の登場人物、セイラ・マスを表した話題作ですが、全長6mに及ぶ巨大な彫像のため、なかなかお目にかかる事はできません(今回も設営に1週間以上かかりました)。
表情もかなり不気味ですが、四つん這いで右手を硬く握りしめ、腹はえぐり取られており異様な迫力があります(展覧会では床の一部がミラー張りになっているため良く見えます)。ぐるっとまわってお楽しみ下さい。
西尾康之《Crash セイラ・マス》 ©NISHIO Yasuyuki ©Sotsu, Sunrise Courtesy of YAMAMOTO GENDAI
続くの展示室では、名和晃平の新作《PixCell-Lion》を展示。ウェブから特定のキーワード検索で見つけたオブジェをガラスビーズで覆う〈BEADS〉シリーズの作品です。
《PixCell-Lion》は、ライオンの剥製をガラスビーズで覆ったもの。近寄って見ると、ガラスの曲面によって表皮が拡大され、形態と乖離したように感じます。
名和晃平《PixCell-Lion》
最後の長い展示室には荒木経惟や蜷川実花の写真作品などが並び、最奥は加藤美佳《パンジーズ》です。
モチーフとなる人形を作り、その人形を撮影し、写真を元にドローイングしてから絵画にする、という極めて特異な方法をとる加藤。必然的に極めて寡作のため、作品をコレクションする事すらなかなか困難です。
通路奥には加藤美佳《パンジーズ》
展覧会タイトルの「ミラー・ニューロン」は、他者の行動を見て「鏡」のように自分も同じように反応する神経細胞のこと。日本文化に宿る「なぞらえ」の模倣行動を「ミラー・ニューロン」というキーワードに込めました。
まさに、日本現代アートのオールスターといえる展覧会。月並みですが、あらためて個人のコレクションという事に驚かされます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年4月23日 ]