待望の展覧会が開幕
横浜美術館開館30周年、原三溪没後80年の記念すべき年に「原三溪の美術 伝説の大コレクション」展が開幕しました。
開会式で横浜美術館の逢坂恵理子館長より「長い間、温められた待望の展覧会」とご挨拶がありました。
また、逢坂館長は三溪と横浜のかかわりについて、横浜美術館は原家から作品の寄贈を受けたほか、関東大震災の時には横浜の復興に尽力した、横浜の恩人でもあると紹介されました。
短い歴史しかない横浜に、歴史という縦糸を、そして若手の作家の支援に対しては、現代という横糸を示したとも語られました。
原家とゆかりの深い横浜
開会式 原信造氏挨拶
ホテルニューグランド会長兼社長、原家5代目、原信造氏よりご挨拶。
同ホテルは、原三溪も創立にかかわった横浜の老舗ホテルです。
ホテルの本館中庭の造園や、各所に飾られた古美術コレクションは、原家との関わりを感じさせます。
ランチビュッフェ割引などもありますので、鑑賞後に立ち寄ってみるのも一興です。
原三溪と展覧会について
原三溪ポートレート 提供 三溪園
原信造氏より、原三溪についてご紹介されました。
「横浜の実業家・原善三郎の孫娘と結婚し、富岡製糸所など生産基地とし、直接ヨーロッパ、アメリカに売り込み成功しました」海外と直接取引で成功したのは、ミキモトパールと、原の生糸だけだったそうです。
美術好きだった原三溪は「コレクター」「茶人」「アーティスト」「パトロン」と多彩な顔を持っていました。
展覧会は、三溪の4つの顔にスポットをあてて構成されており、展示作品の中には信造氏が、見たことのないものがあるそうです。
収蔵作品は、国宝、重要文化財に多数指定され、三溪の審美眼の確かさを物語ります。
また、三溪をはじめ近代数寄者の美術品収集は、明治期の廃仏毀釈や大名家解体による文化財の海外流失を防ぐことにもなりました。
三溪の収集作品は、没後、原家を離れても、国内の美術館に納められています。
若きコレクター原三溪の登場
国宝 《孔雀明王像》平安時代後期(12世紀)、絹本着色・一幅、147.9×98.9cm 東京国立博物館蔵、Image:TNM Image Archives ※展示期間:7月13日~8月7日
三溪が収集した美術品は、5000点を超えると言われています。
その中で、国宝《孔雀明王像》は、35歳の三溪が、古美術収集家として名を世に知らしめたと言われている作品です。
所有者は前蔵相、井上馨。当時としては破格と言われる1万円で購入しました。
毒蛇を食べる孔雀は、病気を沈め、雨乞いや止雨に効果があるとされ、自身もご本尊のように大切していたと伝えられています。金による鍛錬な描写が見事です。
茶人としての原三溪
《志野茶碗 銘 梅が香》桃山時代(16世紀末~17世紀初期)、陶器・一口、高8.3・口径13.5・底径3.8cm、五島美術館蔵 撮影:名鏡勝朗 [展示期間:7月13日~8月7日]
三溪は大正時代に入ると、本格的に茶の湯の世界に入っていきます。
自ら構想した茶室「蓮華院」の完成のころから、茶道具の収集に熱を帯びました。
茶の湯に仏教美術を取り入れるなど、自由闊達に茶を楽しんでいたことが茶会記から伺えます。
写真は、松平不昧の旧蔵品で、おそらく震災の前の大正12年に、不昧旧蔵品を多数入手した中の1つで、2千円で購入しました。
晩年まで茶会記に頻繁に登場し愛用していたことが伺えます。
アーティストとしての原三溪
原三溪《白蓮》昭和6(1931)年、絹本淡彩・一幅、128.0×41.6 cm
三溪は、関東大震災後、美術品の購入を自粛し、幼い頃から描いていた絵画により力を注ぎました。
最も好んだのが蓮の絵です。
この蓮は小林古径に贈り、古径は表具を仏画仕立てとし、三溪に箱書きを依頼しました。三溪はとても喜んだといいます。
アーティストとしての三溪がここまでフォーカスされたのは初めてです。
パトロンとしての原三溪
重要文化財 下村観山 《弱法師》大正4(1915)年、絹本金地着色・六曲一双、各186.4×406.0cm、東京国立博物館蔵 Image: TNM Image Archives *展示期間:8月9日(金)~9月1日(日)
三溪は同時代の美術家を支援したパトロンとしても知られています。三溪が最も寵愛したのは下村観山です。
「パトロン」のコーナーには、他館でおなじみの日本絵画が多数、展示されています。
その裏に三溪の尽力があったことに驚きました。
自身も一堂に観ることがなかった名品。三溪の美術館設立の夢を共に見ているようです。
三溪の高い美意識の根源が浮かび上がり、それに基づく偉大な功績に感謝の念が尽きない展覧会です。
※会期中展示替えあり。
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