磯江毅は1954年、大阪生まれ。大阪市立工芸高等学校を卒業後、本場で西洋美術を学びたいと志し、1974年、20歳のときに単身でスペインに渡り、以後30年余に渡って油彩による写実絵画を探求します。
デッサン研究所や王立美術学校で学ぶかたわら、プラド美術館で模写に没頭。西洋美術の技法を着実に習得していきました。確かな技法に裏付けられた作品は徐々に注目を集めるようになり、1978年にはマドリードの由緒ある公募展で2等を受賞、1981年には当時のスペイン最大のコンクール「バルセロナ伯爵夫人賞展」で名誉賞を受賞するなど、マドリード・リアリズムの俊英画家として高い評価を確立していきます。
展覧会場裸婦や静物画に現れたそのリアリズム表現は、まさに徹底的。「写真と見間違えるよう」という表面的なことだけではなく、その事物が内包している性質や、経てきた時間までも表現していく、作者の執念が伝わってくるような作品群です。本展では初期から絶作までの代表作、約80点を一堂に集めました。
磯江は1996年には日本にもアトリエを構え、スペインと日本を行き来しながら活動するようになります。2005年には広島市立大学芸術学部の教授に就任、日本での活躍も期待されましたが、2007年に惜しくも53歳で病没してしまいました。
数々のデッサン「これほど時代を超えた写実があろうか。磯江毅は夭折した。だが、絵は残った。」(作家・佐伯泰英 ─ 展覧会のフライヤーより)
50歳になってからもマドリードの美術解剖学の講義に出席し、身体の研究を続けた磯江。徹底した研究と卓越した技術で、対象の精神に切り込んでいった稀有な画業は、色あせることがありません。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年7月12日 ]