東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館「カール・ラーション」展
文 [エリアレポーター]
新井幸代 / 2018年9月21日
メインヴィジュアルに使用されている透明感ある水彩画《アザレアの花》と、どことなく北欧らしさを感じるインテリア。
「日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念 カール・ラーション スウェーデンの暮らしを芸術に変えた画家」というタイトルを見て、こっくりした色味のインテリア写真に北欧らしさを感じたのだと合点がいきました。
しかし、対照的な淡い色調の絵と、サブタイトルの”暮らしを芸術に変えた”とは何を意味するのかに惹かれ、足を運びました。
展示は2部構成となっており、第Ⅰ部ではカール・ラーションの絵画、版画、挿絵から本の装幀まで多岐にわたる画業を、
第Ⅱ部ではラーション家での日常生活を描いた画集と、
その絵に描かれた部屋やインテリアを再現しながら、暮らしぶりについて紹介しています。
ラーションの絵画の中でも、とりわけ家での暮らしの様子を描いた作品はどれも陽光たっぷりに明るい色調で描かれています。
しかしながら、挿絵や版画などモノクロで表現された世界は、単なる色の問題だけでない、ある種の暗さが現れているように感じました。
画壇での成功を得るまでには、貧困や挫折があったそうで、画集が世界的に普及する以前の自画像では、内面の焦りや悲痛を吐露しているかのような自画像を見るにつけ、影の部分を持っていたからこそ、これでもかというほど光の強い絵が生まれたのではないかと感じました。
また、衣服のひだや量感を描く技法も学んだ王立美術学校時代の習作を見た後では、人物の服だけでなくカーテンやシーツ、無造作に置かれたラグにまで、ひだを丹念に描いているのが分かりました。
そういった質感の柔らかいものとは違い、床板や家具など質感の硬い箇所は定規を使っているだろうきっちりとした直線が対照的です。
透視図法を使って正確に描き出されたであろう室内風景だけでなく、そこにスナップ写真のように日常の1コマを切り取られた人物が存在することによって、暮らしがリアルなものとして感じられます。
しかしながら、ただの暮らしを描いていたのなら、その絵が各国で受け入れられることはなかったのではないでしょうか。
アーツ・アンド・クラフツ運動にも影響を受けたラーションと、その妻カーリンが作り上げたのは、今なおインテリア雑誌に載っていても遜色のない創造的な我が家でした。
これには、生活の細部にまで芸術的視野を広げた日本美術への憧れが影響しているそうです。ラーションの著書『わたしの家族』の中では、「日本は芸術家としての私の故郷である。」とまで言わしめています。
今回の展示でラーションの絵を観て、カーリンの作るテキスタイルや服を感じた後では、丁寧で芸術的な暮らしに憧れる思いがいっそう強くなりました。
ラーションが日本に対して抱いていた憧れと同じように。
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