ウィーン郊外ロッサウにあるバロック様式の宮殿「夏の離宮」。リヒテンシュタイン侯爵家のコレクションの一部は、避暑用の住まいとして建てられたこの宮殿で公開されています。「ようこそ、わが宮殿へ」という印象的なキャッチコピーは、これに由来します。
展覧会序盤のハイライトは、宮殿に倣った「バロック・サロン」です。家具調度品、タペストリー、彫像はもちろん、天井画まで飾って、空間全体で華やかなバロックの世界を感じてもらおうという試みです。作品のキャプションも別の場所で紹介する徹底ぶりで、なかなか意欲的な演出です。
「バロック・サロン」500年以上にわたって蒐集された、このコレクション。中核を占めているのはバロック美術ですが、前後の時代も含めて幅広く所有しています。
展覧会の「名画ギャラリー」では、ルネサンス期から新古典主義までの作品を紹介しています。ラファエッロ(ラファエロ)、クラナッハ、レンブラント、ハルスら、巨匠の絵画が続々と登場します。
「名画ギャラリー」バロックを代表する画家といえば、もちろんペーテル・パウル・ルーベンス。リヒテンシュタイン侯爵家は36点のルーベンス作品を所蔵しており、質・量ともに世界有数のコレクションといえます。
本展にはルーベンス作品が10点も来日しており、展覧会メインビジュアルの少女《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》もそのひとつです。ルーベンスが5歳の長女を描きました。
まっすぐにこちらを見つめる、青い瞳のクララ。実子の肖像のために派手な演出は無く、親子の関係が素直に伝わってくるような作品ですが、残念ながらクララは12歳で亡くなってしまいました。
《クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像》から、ルーベンス・ルームアンソニー・ヴァン・ダイクはルーベンスの右腕だった人物。イギリスに渡って宮廷画家となり、洗練された肖像画で一時代を築きました。
《マリア・デ・タシスの肖像》は、ヴァン・ダイクの代表作のひとつです。描かれているのは帝室郵便局長の娘で、19歳のマリア。当時のフランスで流行していた形の美しいドレスと自然な表情はとてもチャーミングです。
アンソニー・ヴァン・ダイク《マリア・デ・タシスの肖像》毎年、数え切れないほどヨーロッパの名画が来日している昨今において、これだけ初来日の作品が集まった展覧会はかなりレアケースでしょう。華麗なバロック宮殿を六本木で疑似体験、西洋美術好きなら見逃せません。(取材:2012年10月2日)