2020年に開館10周年となる三菱一号館美術館。明治期の洋風事務所建築だった三菱一号館をもとにした同館は、小さな部屋がつながるような独特の形状で、多くの美術ファンを楽しませています。
本展覧会は19世紀パリの前衛芸術家グループ「ナビ派」に注目。ナビ派の画家たちは、都市とその活気、とりわけ大通りの活気に魅了された都会人で、街路で繰り広げられる光景を注意深く見ている観察者でした。そんな彼らが追求した親密なテーマの中から、「こども」に焦点をあて、都市生活や近代芸術と「こども」との関係を探ります。
会場に入り、最初に目に留まるのは、ブーテ・ド・モンヴェルの《ブレのベルナールとロジェ》。絵本画家でもあるモンヴェルが自身の二人のこどもをモデルにした作品です。挿絵と同様、モティーフを単純化したフラットな画面構成が特徴。主役のこども二人の純粋さや無垢なあどけなさが描き出されています。
ピエール・ボナールは、豊かな色彩で庭や自然を描いています。その中で会話を楽しみ、遊ぶ人々。特に、妹のアンドレのこどもたちを多くの作品の題材に取り上げました。また、「日本かぶれのナビ」と呼ばれているボナール。渋い色彩や洋服の柄、浮世絵で見られる構図が用いられ、日本美術から影響を受けた事が分かります。
一方、フェリックス・ヴァロットンは、他の作家とは異なる視点でパリの街並みを描いています。白と黒のみで構成されたデザイン性の高い木版画。パリで起きた事件やデモ、階級格差などの社会問題をテーマとした風刺作品を生み出します。皮肉やユーモアがあふれる中に、こどもたちは目撃者としていたるところに登場します。
こどもをとりまく「家族」も、主題として取り上げられました。9人ものこどもをもつモーリス・ドニの作品では、こどもの世話をする愛情に満ちた母親も数多く登場します。カトリック信者でもあるドニは、「祈る聖母像」を連想させる作品や、神聖なイメージとして沐浴の場面を多く描いたと言われています。
こどもを描くだけでなく、こどもたちの活動にも関心を抱くようになると、塗り絵や楽譜、物語の挿絵などもつくられました。また、新しい技術として写真による記録も残されています。ボナールやドニは、手軽なカメラを持ち運び、身の回りのこどもたちや、家族の写真を残しました。特にドニは、写真をヒントに光やフレーミングなどの視覚的効果を絵画の制作にも活かしていきます。
エピローグでは、ボナールの晩年の作品を紹介。ナビ派の中でほぼ唯一、第二次世界大戦を生き残ったボナール。南仏のル・カネのアトリエに籠り、日常のささやかな情景や風景を描きます。その中で、例外的に描かれた数点の作品は、明るく鮮やかな色彩で、自由闊達な筆遣いで描かれており、ボナール自身の内面の世界を象徴しているようです。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2020年2月14日 ]※2/28~3/31まで臨時休館。開館日程の最新情報は、公式サイトをご覧ください。