侯爵家の家名が国名になっているリヒテンシュタイン。君主の名前が国名になっているのは、他にはサウジアラビア(サウード家のアラビア)ぐらいしか思いつきません。
リヒテンシュタインの展覧会といえば、2012年に国立新美術館で「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展が開催され、壮麗なバロック芸術が話題を呼びました。
今回は油彩や陶磁器など、約130点を紹介する企画展。コレクションの繊細さや技巧に焦点を当て、貴族の華麗な暮らしを垣間見るような構成です。
リヒテンシュタイン家は、12世紀に岩塊(リヒテンシュタイン)の上に築いた城を居城とし、それが家名になりました。ハプスブルク家と結びつき、カール1世(1569-1627)の代に侯爵位を獲得。1719年にリヒテンシュタイン侯国が誕生しました。
会場の序盤は、侯爵家に連なる人々の肖像画です。侯爵家に相応しく、子どもの肖像画も理知的かつ威厳に満ちた面貌で描かれています。
続いて宗教画、ヨーロッパにおいて宗教と芸術は不可分です。リヒテンシュタイン侯爵家の宗教画は、クラーナハ(父)やルーベンスなど北方芸術の他、イタリア・ルネサンスやバロックなど、描き手も多彩です。
14世紀中頃に増えてきたのが、ギリシャやローマの古代神話を描いた神話画です。リヒテンシュタイン侯爵家はこの分野にも興味を示し、積極的に収集しました。
工芸品は、豪華な磁器が目を引きます。粘土を焼いた陶器に対して、石(陶石)が主原料となるのが磁器です。それまで西洋では作れなかった純白の磁器は、大いに人気を博しました。
中国や日本で作られた美しい磁器を所有する事は、一流の貴族のステータスです。東洋由来の磁器にヨーロッパで金具を取り付けたものもあり、さらに装飾性を高めています。
ヨーロッパでも磁器が作られるようになると、侯爵家に相応しい磁器を作らせるようになります。収集した絵画を磁器製作所の絵付師に学ばせているので、磁器の図柄とコレクションが一致するものもあります。
風景画は、16世紀末に独立した絵画のジャンルとして確立しました。貴族が好んだ狩猟場面はもちろん、19世紀になるとアルプスなど珍しい地形も画題になりました。
会場最後は、花の静物画です。花々を絵画にすると、本来は別の季節に咲く花が同時に鑑賞できるほか、なんといっても枯れる事がないため、ヨーロッパの静物画では、特に人気がありました。
陶板画や磁器の画題として描かれた花も含め、展示室には文字通り華やかな作品がずらり。このコーナーのみ、撮影可能エリアです。
戦争とその後の混乱で広大な領地こそ失われましたが、新たな形でその命脈を保っているリヒテンシュタイン侯国。建国300年を記念する豪華絢爛な展覧会です。東京展でスタート、全国6会場を巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月11日 ]