2025年3月の開館に向けて、最後の整備が進む鳥取県立美術館。県立クラスの美術館としては、ほぼ最後といえる美術館に、県内外のアートファンからも注目が集まっています。
去る4月8日(月)には、竣工記念式典と報道向け内覧会が開催。「未来を“つくる”美術館」と掲げている新しい美術館をご紹介します。
鳥取県立美術館 南側外観
鳥取県立美術館は、手狭となった鳥取県立博物館から美術部門を独立させるかたちで建設されました。場所は鳥取県のほぼ中央に位置する倉吉市で、建物に面した南側には、国指定史跡大御堂廃寺跡が広がります。
美術館のメインエントランスは建物の東側に位置し、広々とした吹き抜けの空間が大きな特徴となっています。右手には総合受付、ミュージアムショップは左手に設けられました。
エントランスホール
ミュージアムショップ
鳥取県立美術館最大の特徴といえるのが、3層の吹き抜けスペース「ひろま」です。南の大御堂廃寺跡に向かって開かれており、県産材による木質の内装であたたかなイメージです。
「ひろま」は上下階を繋ぐエスカレーターや階段、回廊状の廊下で、立体的に回遊できます。パフォーマンスや展示に使うことも想定しており、オープン後にこの空間がどのように使われるのか、とても楽しみです。
「ひろま」の奥にはキッズスペース、その近くには授乳室やファミリートイレも設けられています。
「ひろま」
キッズスペース
「ひろま」はもちろん、廊下の奥や階段室の先にも窓が設けられているなど、それ以外の場所からも外の風景が見られるのもポイントといえます。
鳥取県立美術館のブランドワードは「OPENNESS!(オープンネス)」。明るく開かれたワクワクする空間が、この建築の最大の魅力です。
館内2階から西側を望む
建物3階の南西には展望テラス、2階の南側にはテラスも設置。展望テラスとテラスは外階段で行き来する事もできます。
展望テラス
展望テラス
展示室は3階に約1,000㎡の企画展示室。壁面には国宝や重要文化財の展示にも対応できる展示ケースが設置されました。
コレクションギャラリーは計5つの展示室で、うちひとつは天井高が7mで自然光も取り入れることができる展示室です。
鳥取県立美術館のコレクションは、前田寛治や辻晉堂らの県出身の著名な美術家の作品のほか、アンディ・ウォーホルの《ブリロの箱》をはじめとする国内外の優れた美術を所蔵しています。
企画展示室
美術館を手掛けた槇総合計画事務所を率いていた建築家・槇文彦氏は、惜しまれながら去る6月に逝去。建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞した世界的建築家の槇氏にとって、鳥取県立美術館は最後の大型プロジェクトとなりました。
鳥取県立美術館 南側外観
開館にあわせて訪問を考えている方のために、周辺の観光施設もご紹介しておきましょう。
鳥取といえば、多くの人が最初に思い浮かぶのは鳥取砂丘でしょう。風の強さや方向でたえず形が変わり、自然が生み出した芸術といえます。
冬は雪も降る鳥取砂丘。真夏はとても暑いので、飲み物や帽子などをお忘れなく。
鳥取砂丘
現代アートが好きな方には、2024年3月に開館したばかりの「アート格納庫 M」がおすすめです。倉吉市で70年以上の歴史を持つ業務用品商社、株式会社丸十が空き倉庫を使って運営する巨大ギャラリーです。
アートで地域を豊かにしたいというオーナーの思いから、原口典之の巨大作品《Oil and Water》と《Untitled FCS》を「格納」。企画展示スペースでもアート作品が紹介されます。
アート格納庫 M
子ども連れにも楽しいミュージアムが「円形劇場くらよしフィギュアミュージアム」。地元のシンボルとして愛されていた日本最古の円形校舎(旧明倫小学校:1955年建設)の建物を再利用したもので、約2,000点のフィギュアをジャンル別に展示しています。
鳥取にはまんが文化が息づいており、倉吉市にはフィギュアのトップメーカーの工場があります。歴史ある教室で、日本が誇る新しいカルチャーを感じてください。
円形劇場くらよしフィギュアミュージアム
最後に、倉吉市からは少し離れていますが、体力に自信がある方はぜひチャレンジしていただきたいのが国宝「投入堂」(三徳山三佛寺奥院)です。
写真家の土門拳が「日本第一の建築」と評した、断崖絶壁の窪みの中に建造された仏堂は、手前まで近づくには、木の根や岩をよじ登るなど、かなり厳しい道のり。ただ、それだけに到達した時の達成感はひとしおで、ぜひ一度は見ておきたいスポットといえます。
「日本一危険な国宝」として知られ、雨や雪の日は入れませんし、服装(とくに靴)のチェックもあります。必ず訪問前に公式サイトをご確認ください。
三徳山三佛寺奥院 国宝「投入堂」
鳥取県立美術館の開館は2025年3月30日(日)。開館記念の展覧会は「アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術 ~ 若冲からウォーホル、リヒターへ ~」が予定されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫、坂入美彩子 / 2024年4月8日 ]