「実現不可能な使命」を描いた映画が「ミッション:インポッシブル」なので、インポッシブル(Impossible)の意味は「不可能」。ただ本展に並ぶ建築は、無理難題のために完成しなかったわけではありません。
実現しなかった要因は、法律や技術の問題、コストや工期の問題、コンペでの落選案、または政治的・社会的な問題など。逆に言うと、それらの諸条件さえ満たされれば、いつでも「ポッシブル=可能」になる建築でもあります。
まずは会場入口前のCG映像《見えない都市#パート1#メタボリズム》から。映像作家のピエール=ジャン・ジル―による、日本の建築運動・メタボリズムへのオマージュ作品です。現在の東京の姿に、当時の計画を3DCGで入れた動画ですが、驚くべきリアルさ。黒川紀章による二重螺旋構造が電車の車窓から見えるさまはゾクゾクします。
会場に入ると、ほぼ年代順の構成です。ウラジーミル・タトリンの「第3インターナショナル記念塔」は、ロシア・アヴァンギャルドを象徴する作品。ロシア革命政府のモニュメントで、高さは世界で最も高かったエッフェル塔を凌ぐ400メートル。下から立法府、行政府、情報局が入り、それぞれ1年、1カ月、1日に1回転します。当時のソ連では経済的にも技術的にも建設は困難でしたが、広く世界に知られました。
関東大震災で大破した東京帝室博物館(現東京国立博物館)の再建案を募るコンペに、落選覚悟で果敢に挑んだ若い建築家が前川國男です。コンペはあらかじめ平面プランが用意され、「日本趣味ヲ基調トスル」という建築様式も指定されていましたが、前川は諸条件を無視。上野公園まで含んだ大胆な平面プランと、シンプルな外観デザインを示しました。図面は戦災で焼失し、雑誌に載った図版しか残されていませんでしたが、今回、配置図と模型が作成されました。
磯崎新の「東京都新都庁舎計画」も、確信犯的な計画。コンペの要項を読み解くと、事実上「超高層2棟」しかあり得ない中で、意図的に低層のプランを提示しました。縦割り行政から横へのネットワークを促すとともに、権威としての塔を否定しています。
展覧会の大きな目玉が、ザハ・ハディド・アーキテクツ+設計JVによる「新国立競技場」。コストのみがクローズアップされ、マスコミ主導のネガティブ・キャンペーンが行われたのは記憶に新しいでしょう。首相が世界に示してオリンピック招致を勝ち取ったはずのプランは、首相自身の「英断」によって白紙撤回されました。
会場にはCG映像や風洞実験模型のほか、目を引くのは参考出品として展示されている分厚い実施設計図書。「アンビルドの女王」どころか、構造性能評価書も取得し、後は大臣認定書を待って確認申請を行う段階でした。この作品のみ、あえて「建築可能であったプロジェクト」として紹介されています。
ユニークな手法で建築デザインを提案するのが、マーク・フォスター・ゲージ。有機的な外観は、さまざまなオンラインソースから無作為にオブジェクトをダウンロードし、3Dモデルにして組み合わせたものです。象徴性を持たせつつも、読み解く事ができないデザインです。
絵画や彫刻とは違い、建築は社会との接点が強いため、より社会からの影響を受けやすいものです。オリンピックに向けた開発が進む中で、公立の美術館でこの展覧会が開催されるのも、とても意義深いと思います。埼玉でスタート、新潟、広島、大阪と巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年2月5日 ]