茶の湯や禅、能楽など、さまざまな伝統文化が日常に根付いている町、金沢。昔から工芸の制作も盛んで、現在でもアーティストの工房が点在し、日々新しい表現が生まれています。 2017年から金沢で開催されている、国内唯一の工芸に特化したアートフェア「KOGEI Art Fair Kanazawa 2023」。7回目となる今回はアーティスト213名の作品と、現代の⼯芸〜古美術など多数の作品が並びました。
会場の「ハイアット セントリック 金沢」
金沢駅近くのハイアット セントリック 金沢で開催された「KOGEI Art Fair Kanazawa 2023」。会場は2階、5階、6階の3フロアです。 2階のインフォメーションを抜け、奥に並ぶのは、5名の作家の作品です。日本経済の根幹である「ものづくり」の継承と発展、そして工芸が包含するサステナブルな思想の継承を目指す「MUFG工芸プロジェクト」(総合監修:秋元雄史氏)の展示です。
「MUFG工芸プロジェクト」by 三菱UFJフィナンシャル・グループ
その奥には、インテリアデザイナーの内田繁がデザインした<茶室 想庵>も展示されています。木のフレームに竹や和紙の自然素材で構成されており、畳んで持ち運ぶことができます。 茶室に展示されている茶の湯のうつわは、国立工芸館の石川移転・開館記念事業として行われた国立工芸館のクラウドファンディング「12人の工芸・美術作家による新作制作プロジェクト」により、同館の所有となった茶道具です。
内田繁<茶室 想庵>
<茶室 想庵>内の茶道具
今回出展しているのは日本32、台湾7、韓国1と、計40ギャラリー、過去最多の規模になりました。 特筆すべきは、ほとんどのギャラリーが客室で展開していること。通常のアートフェアは大きなホールで小間割りのブースが並びますが、ここではそれぞれの客室に作品が設置されています。 日常の生活と近い距離にある工芸の特性にあわせた、珍しい試みです。
Gallery LVS & Craft│韓国
ArtShop 月映│石川
atelier&gallery creava│石川
客室での展示なので、ホテルの通路を通って巡ります
会期中には、トークイベントも開催されました。サラリーマン生活を続けながら趣味で美術作品を購入し続け、現在ではさまざまな企画を手掛け、若手作家の発表の場を作っている山本冬彦氏は、アート収集の意義を強調しました。 「買いたい理由なんて、説明できなくて良い。流行や人気にとらわれず、欲しいと思うフィーリングを大切にすべき。また、ジャンルを固定せずに、横断的に見る事で、クールな感覚を養うことも大事」と、コレクションの秘訣を語ってくれました。
(右奥登壇者)山本冬彦
秋元雄史氏がモデレーターを務めた別のトークイベントでは、田中里姫(ガラス作家)、外山和洋(金工作家)、藤田和(漆芸作家)の三氏が登壇。世界を変える30歳未満、30人の日本人を表彰するForbes JAPANによる「30 UNDER 30」で、新設された工芸の分野で特別賞を受賞した三氏が、それぞれの創作のプロセスなどを紹介しました。 秋元氏の軽妙な進行で、三者それぞれの個性が引き立ち、満席の会場は作家の思いに引き込まれていました。
(奥登壇者 左から)藤田和(漆芸作家)、外山和洋(金工作家)、田中里姫(ガラス作家)、秋元雄史(モデレーター)
登壇者した作家の作品 (左から)田中里姫(ガラス作家)、外山和洋(金工作家)、藤田和(漆芸作家)
国立工芸館が所有する茶道具を用いた茶会も、ユニークな試み。国立工芸館との共催で、初めて実現しました。 「KOGEI Art Fair Kanazawa 2023」の会場では、茶道家の奈良宗久氏が席主を務め、金沢の茶の湯の世界が披露されました。
茶会の様子 (奥左側)奈良宗久(茶道家)
工芸が息づくまち、金沢で開催することに意味があるアートフェアです。石川県のギャラリーも5つ出展していました。金沢発の工芸の流れがどのように進化していくのか、今後の展開も目が離せません。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年12月2日 ]