愛知県蒲郡市の三谷温泉(ミヤオンセン)で始まった「ととのう温泉美術館」をご紹介します。先に海岸側の会場をレポートしたので、今回はその続きの山手編です。
ととのう温泉美術館 山手編
松風園を出て、国道を山側に渡り、ホテル三河海陽閣に向かいます。
モノクロの映像が映写スクリーンではなく、カーテンに投影されています。 背景はビルの立ち並ぶ現代の都会のようですが、歩いている人物は着物姿です。サイレントなのに、下駄の音が聞こえてきそうです。
クレメンス・メッツラー《いまとまえ》
クレメンス・メッツラーは、イラストレーターです。彼の作品に登場する建築物や都市景観は、どこかレトロで懐かしい感じがします。そういえば、会場に来ていたテレビクルーのひとりが、「とても印象的な作品だった」と話していました。地味に見えて、玄人受けする作品なのでしょう。
「クラブ潮騒」には、2人の作家の作品が展示されています。
近藤萌、市川岳人《巡るあの頃》
新型コロナの影響で営業休止中のクラブを使った大型のインスタレーションです。天井付近と右手の窓際の作品は近藤萌、ボックス席のテーブルの上の作品は市川岳人です。カーテン越しに赤みのかかった光が差し込み、ちょっと不思議な空間になっています。
近藤萌はフラワーアーティスト、市川岳人は木工作家です。 会期中、不定期でドリンクサービスのイベント(有料)があるそうです。
海陽閣から急な坂をさらに上って、平野屋へ向かいます。 ロビーから右奥の廊下に進むと、赤いドラム缶や様々な楽器を取り付けた台車のような作品が見えます。手前の緑色のボタンを押すと、作品がとてもゆっくりと動きます。
西原尚《まじめな機械》
ギターやヴァイオリン、ドラム缶を器用に演奏しながら動く様子は、まるで大道芸人のようです。そういえば、平野屋には、八代目玉屋庄兵衛の「からくり人形(竹取物語)」があります。こちらのからくりは動きませんが、からくりつながりで楽しい展示です。
西原尚は、音を主軸に美術と音楽を横断した制作をする作家です。
エレベーターで最上階に昇り、さらに階段で展望室に上がります。展望室に入ると、横長で白く、右側に小さな階段のついた箱のようなものが見えます。周りには椅子が置かれています。
D.D.《あなたのような家》
この作品は、上に登ることも、まわりの椅子に座ることもできます。ぜひ、登ったり、座ったり、もぐったりして体験してみましょう。(登る時は、気をつけて) もちろん、三河湾の眺めも素晴らしいです。
D.D.は今村哲と染谷亜里可を中心としたアーティストユニットです。D.D.の体験型インスタレーションには、それぞれがソロで制作する作品とは違った魅力があります。
ロビーに流れているのは、ニール・レオナルドの音楽です。静かな曲調が続きますが、ときおり、波の音が強くなります。露天風呂に入りながら、この曲を聴いたら、どんな気持ちがするか、想像してみました。曲名は《Beyond Beauty~美を超えて~》といいます。
三谷温泉ひがきホテルへ向かいます。ひがきホテルは平野屋のすぐ西側にありますが、間に谷があるので、いったん国道まで下り、ふたたび急な坂を上ります。
地下に降り、入口が丸い居酒屋に入ります。テーブルの上には料理された魚や野菜が器に盛られて並んでいます。どの器も、とてもおいしそうに見えますが、ふしぎと何の匂いもしません。
札本彩子《居酒屋モシャス》、《首塚》
実は、これらは食品サンプルを作る技法で作られた非食物です。「だまし彫刻」という言葉があるかどうかは知りませんが、見事にだまされました。
札本彩子は、食べ物をモチーフにした作品を作ります。その作品は、高橋由一の鮭や豆腐よりも数倍おいしそうです。本展では、この他にスポンジとサーモン、お寿司の時計なども見ることができます。
今度は、露天風呂のほうに行きます。渡り廊下の途中に小庭があって、地面の近くにメタリックに光る、ゆがんだ網のようなものが広がっています。
本郷芳哉《Appearance》
枯山水の水の表象のようです。日の光が当たると、きれいにキラキラと光ります。渡り廊下の上から眺めると、まるで雲に乗っているようにも感じます。
本郷芳哉は、ひがきホテルの露天風呂を体験したそうです。「すばらしい」と言っていました。宿泊すれば夜11時まで入浴できるそうなので、昼間とは違う作品の表情を見ることができます。
露天風呂の門の脇に、白い大きな立像が2体あります。表面はざらざらとしていて、野生動物の荒々しい毛皮のような風合いです。奥側の大きな像はクマのようです。手前の2本の角をはやした像は、何の動物なのでしょう。
台湾アートロビー(夏愛華)《鎮墓獣をながめるもの》
夏愛華は、沖縄県立芸術大学大学院で乾漆彫刻を学びました。古来から伝わる技法を守りながら、新しい表現を模索しています。
午後4時半過ぎ、パフォーマンスを見るため、松風園に戻ります。 日没の15分前から、小畑亮吾の《夕刻のヴァイオリン弾き sunset》が始まります。
小畑亮吾《夕刻のヴァイオリン弾き sunset》
三河湾に沈む夕日を見ながら、「ととのう温泉美術館」巡りも終了です。
作品を見ていると、あっという間に夕方になり、せっかく温泉地に来たのに温泉に入る時間がありませんでした。展覧会と温泉の両方を楽しむためには、日帰りなら2回に分けて来場するか、思い切ってお泊りで来場することをおすすめします。
本展のパスポート(チケット)を購入すると、入浴券が1枚もらえます。その入浴券で、いずれかの会場で1回、露天を含む温泉を楽しむことができます。
そこで、本展スタッフにおすすめの温泉を聞いたところ、宿泊すれば5か所の温泉に追加料金なしで入れるから、次回はお泊りでくればいいよと、お得な情報を教えてもらいました。(三谷温泉通年企画:トライお湯ロン)
→ ととのう温泉美術館(レポート その1)
→ ととのう温泉美術館(レポート その2)
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2023年1月20日 ]
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