東京ステーションギャラリーを皮切りに、横山華山の初の大回顧展が
巡回します。ボストン美術館などに渡った作品も里帰りし、総展示数は約100点に及びます。(前期後期で展示替え有)
展覧会では、画題によって画風を変えた華山の作品を、6章に分けて展示。ここでは、特に見てほしい「華山の世界」をピックアップしてご紹介します。
1章「蕭白を学ぶ」では、華山が影響を受けた絵師・曾我蕭白の作品とともに、出発点となった作品が展示されます。
華山が模写した《蝦蟇仙人図》は、蕭白の不自然さを修正し、仙人と蛙を自然な姿態で描き表しています。ただ模写をするだけではなく、憧れの蕭白を超えようとする強い意志が見て取れる作品です。
4章「山水」では、華山の名を一躍世に知らしめた作品《花洛一覧図》を展示。華山の緻密な筆遣いが堪能できます。当時の知識人である斎藤月岑が、江戸の絵師たちにも大きな影響を与えたと伝えたと『武江年表』に記しています。
そして華山と言えば、風俗画。花見などの伝統的な画題に華山独自の視点を加えて表現。身近な場所や文化・行事を詳細に描いた作品は、人々の共感を得ました。
中でも祭礼図は逸品。6章に展示されている《祇園祭礼図》は、江戸時代後期の祇園祭の全貌を、上下巻約30メートルにわたって克明に描写。華山の集大成ともいえる絵巻物です。
山鉾が詳細に描かれた《祇園祭礼図》。山鉾「鷹山」は、1826(文政9)から200年近く‘休み山’になっていますが、この画巻を参考にして復興を目指す動きが出るなど、歴史資料としても注目されています。
華山の弟子・小澤華嶽の《ちょうちょう踊図屏風》の展示は、東京展のみ。こちらは、1839(天保10)年の春の京都に住む人々が、前触れもなく思い思いに仮装をし、昼夜問わず踊り狂う様子を描いた作品です。
紋付き袴のお役人が、茫然と立ち尽くしている様子もユニークです。残念ながら、華山はこの踊りを見ることなく亡くなりましたが、もし生きていたら格好の画題となっていたことでしょう。
見れば見るほど、惹き込まれる華山の世界。間違いなく、今年注目の絵師です。この機会をぜひ、見逃さないでください。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年9月21日 ]