豊田市美術館で「ゲルハルト・リヒター」展がはじまりました。 展示作品数は約140点、日本での大規模な回顧展は16年ぶりということで、とても楽しみにしていました。
初見の驚きを楽しむため、先に巡回した東京会場のニュースは、できるだけ読まないようにしていましたが、リヒター展の話題は何かと目にすることが多く、それだけ注目度の高い展覧会なのだろうと思います。
展示風景 <グレイ・ペインティング>
展覧会の見どころ 《ビルケナウ》まで
東京会場の展示との大きな違いは、作品の並び順です。豊田会場では、おおむね作品の制作年、作品番号順に並んでいます。そのおかげで、年代ごとの作風の変化が読み取りやすいです。
1階の展示室には、<フォト・ペインティング>、<グレイ・ペインティング>、<アブストラクト・ペインティング>、<カラーチャート>、<ストリップ>、<ビルケナウ>までが並んでいます。
作品の並びの途中に、ところどころ鏡やガラスがあります。その前を通ると、自分の姿や他の観覧者、他の作品が写りこんで、なにやら作品の一部になったような気持ちになります。
展示風景 鏡の作品に移りこんだ<フォト・ペインティング>(左)
作品リストを見ると、タイトルは《鏡》、材質は「鏡(ガラス)」となっています。これらの作品では「見ること」と「見られること」は対局にあるのではなく、とても類似した行為であると、示唆しているようです。
次の展示室で、幼児の肖像画に目が留まりました。食事中なのでしょう。手にスプーンを持ち、こちらを見ています。リヒターの息子を描いたものらしいです。家族に向ける作家のやさしさが見て取れるようです。
展示風景 《モーリッツ》2000/2001/2019(右)
次の展示室に入って驚きました。カラフルで大型の2つの作品(《4900の色彩》と《ストリップ》)の間に、《8枚のガラス》という、タイトル通りの作品が置かれていて、後ろに下がって作品全体を見ようとすると邪魔になります。
展示風景 《8枚のガラス》2012(左)、《4900の色彩》2007(右)
展示風景 《8枚のガラス》2012(手前)、《ストリップ》2013-2016(奥)
そこで、ガラスの隙間から見てみようと、ゆっくりガラスの作品の周りをまわると、パラパラ漫画みたいに奥側の作品がガラスに映りこみ、まるでアニメーションのような作品に早変わりします。
次の展示室に、本展で話題の《ビルケナウ》が並んでいます。 本作については、すでに数多くの展覧会レポートで触れられているので、詳細は省略します。 ただ、絵の具の後ろに塗り込めたものは、本当に隠せたのか、遠い過去のものなのか、考えてみたいと思います。
展示風景 《ビルケナウ》(写真バージョン)2015-2019
掲載した写真は《ビルケナウ》の写真バージョンです。もちろん、本展には油彩の《ビルケナウ》も出品されています。ですが、多くの方が見る作品イメージはメディアのカメラを通したものでしょうから、写真バージョンのほうが本物っぽいかもしれません。
《ビルケナウ》以降
ここから、2階、3階の展示室に移動します。
展示室の明るさと相まって、アブストラクト・ペインティングの色彩が目を引きます。 それと、先ほど気づいたのですが、きれいに磨かれた床に作品が反射して、思わぬ鏡の効果が出ています。
展示風景 《アブストラクト・ペインティング》 2016 (左、中央)、《ヨシュア》 2016 (右)
展示風景 《アブストラクト・ペインティング》 2017
2階と3階の展示を見て、気分が少し楽になりました。 ですが、時間をかけ、先ほどまで見ていたものを、ゆっくりとかみしめたいと思います。
本展では、講演会、映画上映会、コンサート、ギャラリートークなど、関連イベントも盛りだくさんです。詳しくは、美術館ホームページをご覧ください。
また、コレクション展「反射と反転」を同時開催中です。 こちらでも鏡を使った作品や、表面に周囲が写りこむ作品などが出ています。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2022年10月14日 ]
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