1930年以降、建築や生活文化が変貌しモダンとクラシック、都会と地方の両極で揺れ動いていた日本。
建築家、ブルーノ・タウトや民藝運動を展開した柳宗悦、フランスのデザイナー、シャルロット・ペリアンらが注目して訪れた、東北地方の文化や営為を紹介する展覧会が開催中です。
東京ステーションギャラリー 会場入口
日本のデザイン界にも大きな影響を与えた、ドイツの建築家ブルーノ・タウト(1880-1938)は、日本インターナショナル建築家による招きで1933年に来日。仙台の商工省工藝指導所で約半年間デザイン規範を指導した後、高崎でも工芸品のデザインや指導に携わります。
第1章では、版画家・勝平得之の案内で訪ねた秋田の旅を年表形式で紹介しながら、東北でデザインした工芸品や日本の友人に託された日記、アルバム、原稿などの遺品から、東北での足跡を辿ります。
第1章 ブルーノ・タウトの東北「探検」
第2章では「民衆的工藝」を略語化した「民藝」を提唱した柳宗悦の東北美学を紹介。1927年から1944年までに20回以上訪れた東北は、柳にとって“民藝の宝庫”でした。ここでは、柳が東北各地で収集した蓑、刺子、陶芸などの品々や、同人、芹沢銈介や棟方志功の作品を展示しています。
第2章 柳宗悦の東北美学
昭和初期、交通機関が発達することで旅行が増えるとともに地方への関心が高まりました。同時に、本来子どもが楽しむ郷土が大人の趣味や収集の対象となっていきます。
第3章 郷土玩具の王国
知識人から中間層へ裾野を広げた郷土玩具。1930年、童画家・武井武雄が自らのコレクションを収めた『日本郷土玩具集』の出版をきっかけに、各地に収集のネットワークが広がりました。会場には、東北各地のこけしや土人形、張子人形など、郷土玩具の世界を紹介します。
第3章 郷土玩具の王国
第3章 郷土玩具の王国
昭和初期、東北の豪雪地帯では、経済恐慌や凶作に陥り疲弊した時期でもありました。農林省は山形県新庄に積雪地方農村経済調査所(通称「雪調」)を設置し、救済の道を探ります。
そこで、雪害の研究と対策、農村の副業の基盤整備、農産物加工の指導と伝習を推進。柳宗悦や濱田庄司らによる講習会や品評会で東北の民藝を盛り立てるとともに、民家研究の第一人者である今和次郎は、雪害を受けにくいトンガリ屋根の試験農家家屋を設計するなどの対策も講じました。
第4章 「雪調」ユートピア
最後の章では、東北の生活文化を丹念に描いた福島出身の吉井忠のスケッチを紹介。吉井はシュルレアリスムなどの前衛芸術に傾倒した後、ルネサンスなどの古典絵画を学び直します。
1941年から3年間、青森から福島まで漁村の人々の暮らしをスケッチや取材を行いまとめた『東北記』では、物資の乏しい戦時下においても、貧しくも粘り強く生きた東北の人々の営為を感じることができます。
第6章 吉井忠の山村報告記
柳宗悦やタウトが見出した東北について、様々な角度から展観できる今回の展覧会。展示を通して東北独特の力を感じることができます。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年7月15日 ]