ドイツのケルン市に位置するルートヴィヒ美術館。ドイツ表現主義やキュビスム、ロシア・アヴァンギャルド、ピカソやポップ・アートなど同館の多様なコレクションを紹介する展覧会が、国立新美術館(東京・六本木)ではじまりました。
会場入口
1986年に開館したルートヴィヒ美術館。1976年、ルートヴィヒ夫妻によってケルン市に最初に大規模な寄贈がなされてから今日まで、同館のコレクションは市民のコレクターによる寄贈を軸に形成されてきました。
本展では序章から7章まで8つの章で構成。油彩や彫刻、立体や写真を含む約150作品を展示し、美術を通して歴史を通観することができます。ここではいくつかの章をピックアップして、紹介していきます。
ルートヴィヒ美術館展 東京会場 会場風景
序章では、美術館の支援者、寄贈者について紹介。館名にも冠されている“ルートヴィヒ”夫妻は、実業家として成功を収めた後、早くから美術作品の収集を始めます。1976年、20世紀の美術に特化した新しい美術館の創設を条件に、ケルン市に作品を寄贈しました。
ルートヴィヒ夫妻のコレクションは、古代、中世の美術から民族芸術、現代美術まで幅広く、約14,000点に及ぶ収集品は世界約30の公的機関に寄贈、寄託されています。
会場風景
一方、表現主義や新即物主義などドイツ近代美術の名品の多くは、ケルンで弁護士として活躍したヨーゼフ・ハウプリヒによるコレクションです。第二次世界大戦から守り抜いた貴重なコレクションは戦後、ハウプリヒによってケルン市に寄贈されました。
(左から)パウル・アドルフ・ゼーハウス《山岳の町》1915年 / ワシリー・カンディンスキー《白いストローク》1920年
2章では、革新的な芸術、ロシア・アヴァンギャルドを紹介。
ロシア・アヴァンギャルドの代表的な作家といえば、カジミール・マレーヴィチです。キュビスムやイタリア未来派を学んだ後、独自の表現を追求。マレーヴィチが提唱した幾何学的な形態による抽象的な表現を突き詰めた「スプレマティズム」は後進の芸術家にも影響を与えました。
会場風景
ルートヴィヒ美術館では、写真が誕生した19世紀前半から現代にいたるまでの約70,000点に及ぶコレクションを収蔵しています。その中には、マン・レイをはじめ多くの写真家として交流のあったグルーバー夫妻からの購入と寄贈もあり、その数は3,500点にも達します。
会場風景
3章ではキュビスムに代表する革新的であり、時代を代表とする存在であったパブロ・ピカソやその周辺の作家の作品を展示。
後半の展示では、アメリカの抽象表現主義を代表とするジャクソン・ポロックや、アメリカで1960年代に隆盛したポップ・アート、前衛芸術を紹介していきます。
会場風景
ドイツが分裂をしていた冷戦時代、ルートヴィヒ夫妻は作品の貸与に尽力をし、東西の架橋となっていました。美術館は様々な歴史を経て、今日では個人コレクターのほかに様々なかたちで市民の支援を受け、優れた現代作家の顕彰や若手作家の作品も所蔵しています。
ドイツの歴史を通観しながら、多様な作品を鑑賞できる展覧会。東京での開催後、10月からは京都国立近代美術館に巡回します。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2022年6月28日 ]