絹糸を用いたインスタレーションで、繊細ながら存在感のある空間を生み出す池内晶子。 「第19回 DOMANI・明日展」でも作品を出展するなど、活躍の幅を広げている池内の美術館での初個展が府中市美術館で開催中です。
府中市美術館 外観
1967年生まれの池内は、1988年から糸を用いた作品を制作。当初はポリエステルや木綿を使っていましたが、次第に絹糸に絞って制作を行います。結んでは切って、結んでは切ってを繰り返し、1つの糸で1つの作品を生み出します。
実際に会場に足を運んでリサーチをした上で行われる池内の制作。周辺の地理や歴史的特徴など、周辺の環境も取り入れます。2階建ての府中市美術館は会場内の上下移動が伴うとともに、美術館の南に流れる多摩川によってつくられた高低差のある地形があり、それらも作品の構想となっています。
《Knotted Thread-red-Φ1.4cm-Φ720cm》 2021年
存在感溢れる赤い空間が目に飛び込んでくる1つ目の会場。床に円状に渦を巻いているのは、1本の絹糸によるもの。池内が会場で約6日かけて制作したこの作品は、1巻き1300メートルの糸を17巻分、つまり2.2万メートルもの絹糸が使用されています。
《Knotted Thread-red-Φ1.4cm-Φ720cm》 2021年
人の動きだけでなく、湿度や温度などの空気の些細な変化でも揺れる絹糸。人の動きで緩んでいた糸も、人がいなくなると緊張します。天井から約2.2メートルの絹糸が吊るされた2つ目の作品では、玉結びの跡も見ることができます。
《Knotted Thread-h220cm(north-south)》 2021年
何十回、何百回と繰り返された結び目には、池内にとって非常に重要な意味をもたらします。糸を結ぶことは、池内自身や家族の記憶との社会とのつながりを象徴的に表し、「縁を結ぶ」という意味も込められています。
会場風景
遠くからでは帯の様に見える3つ目の作品。10センチ間隔で配置された糸は、“面”の要素が強くなっています。近づくにつれ見えたり見えなかったり、目線の高さや作品との距離、見る角度を様々に変えながら鑑賞することができます。
《Knotted Thread--red-east-west-catenary-h360cm》 2021年
会場には、1990年代~2000年代前半に制作されたドローイングや版画なども展示されています。ハガキ大のドローイングはほぼ毎日、日記的に2枚程度描いているもので、中には夢からインスピレーションを得たものもあるそうです。
会場風景
制作に使用されている糸も展示されています。結び目を施した糸を作り、スムーズに現場で制作を進めていくそうですが、気が遠くなりそうな作業です。
会場風景
鑑賞後には、2階から目を凝らして館内を見渡してみてください。2000年に開館し22年目となる府中市美術館を記念し、22の結び目をつけた1本の糸が吊るされています。
会場に訪れたことで初めて分かる作品の繊細さや空気感、是非足を運んで体験していただきたいです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2021年12月21日 ]