書画や篆刻、陶芸や漆芸など幅広い分野で才能を発揮し、優れた芸術作品を生み出した北大路魯山人(1883-1959)。
足立美術館では創設者の足立全康、そして全康の孫で現館長の足立隆則氏も熱心に魯山人作品を収集し、現在では約400点を所蔵しています。
これまでは陶芸館で50点前後の魯山人作品を展示していましたが、より多くの作品を展示できる施設として新設されたのが、魯山人館です。
立地は赤松が林立する庭園の中。石畳のアプローチを進み、奥に佇む蔵のようなイメージで設計されました。
魯山人館のエントランスロビーには、魯山人の刻字看板《淡海老鋪》を展示。大正2年、福田大観と名乗っていた若き日の作品で、魯山人の篆刻では傑作と評価されています。
展示室は、壁面展示ケースの上部に照明を設置。光が天井面に反射し、柔らかな光が室内を包みます。室内は白ベースなので、魯山人の多彩な作品、どれもが美しく引き立ちます。
ひときわ目を引く豪華な壺は、《金らむ手津本(金襴手壺)》。紅色の器の全面に葡萄の葉、実、蔓が金泥で描かれています。魯山人は赤地金襴手を得意としましたが、このような大作は異例。雅趣に富み、魯山人陶芸の最高峰の一点といえます。
魯山人コレクションの新収蔵品、54点も見どころ。《いろは屛風》も新収蔵品で、淡墨で「いろは歌」を豪快に書いた六曲一双屛風です。70歳の時の作品で、晩年の書の代表作でもあります。
展示ケースには最新の高透過・低反射ガラスを採用。作品の細部まで楽しむことができます。新たな50年に向けて歩き始めた足立美術館、時間をとってゆっくりとお楽しみください。
内外に名高い足立美術館ですが、このコーナーでご紹介するのは初めてです。美術館全体についても、ご紹介しましょう。
島根県安来市にある足立美術館。創設者の足立全康は、大阪で繊維問屋、不動産関係などの事業を展開するとともに、幼少より興味を持っていた日本画を収集。郷土への恩返しの意味も込めて1970年に開館したのが、足立美術館です。
コレクションの中心は近代日本画。中でも横山大観は《無我》《紅葉》など名作も含めて約120点を揃えており、横山大観特別展示室(大観室)で、常時20点前後を公開しています。今秋には開館50周年記念として本画100点を展示する「横山大観の全貌」展も開催されます(9/11~10/25)。
他にも竹内栖鳳、上村松園など著名な近代日本画家の作品を数多く所蔵。季節にあわせた年に4回の特別展で、展示替えしながら紹介しています。
日本美術の発展への思いから、1995年には足立美術館賞もスタート。毎年9月に開催される日本美術院展覧会(院展)の中から1点を選考し、買い上げています。
25年に及ぶ活動という事もあり、やや目立たなくなっているように感じられますが、民間の美術館がこれほど長期にわたって日本美術を支援するのは異例。高く評価されて良いと思います。
そして、何といっても特筆されるのが庭園。創設者の足立全康は「庭園もまた一幅の絵画である」という信念のもと、91歳で亡くなるまで、庭造りに執心。米国の日本庭園専門誌において、17年連続で日本一に選ばれています。
庭園は枯山水庭、白砂青松庭など。年間を通して入念に手入れが行われ、四季折々でさまざまな表情を見せてくれます。美術品は撮影不可ですが、庭はOK。いつも多くの方が記念撮影を楽しんでいます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年3月26日 ]