寺田倉庫が天王洲で運営している
建築倉庫ミュージアム。2018年にリニューアルされ、建築模型の保管・展示に加え、建築文化に焦点をあてた企画展も開催しています。
展示室Aで開催されている本展では、日本のホテルの原点といえるクラシックホテルにフォーカス。100年前の創業期から未来に向かう時間を体感してもらう趣向です。
会場では12のクラシックホテルが、象徴的なキーワードとともに紹介されています。ここでは、うち4つをご紹介しましょう。
奈良ホテルは、鉄道院(後の鉄道省)が建設した初のホテルです。設計は近代建築の父・辰野金吾ですが、周辺地域との調和が重視され、桃山御殿風檜造りの意匠です。
国の威信をかけてつくられた事もあり、建設費は鹿鳴館の約2倍。国賓や皇族も宿泊し、「西の迎賓館」と称されました。
ホテルニューグランドは、関東大震災で被災した横浜の復興計画で建設されたホテルです。渡辺仁が設計した本館は現在でも開業時の姿を保っており、横浜のランドマークとして親しまれています。
初代総料理長として招聘されたサリー・ワイルは、ドリア、ハンバーグ、ナポリタンなど、日本人の舌にあう数々のレシピを考案。日本における洋食文化を大きく発展させています。
今回の目玉といえるのが、箱根の富士屋ホテル。1878年に開業した、日本初の西洋式ホテルです。現在、2年間にわたる「平成の大改修」中ですが、本展では改修中の状況も紹介されています。
長い歴史を誇る富士屋ホテル。終戦時には数々の資料を倉に移し、扉を封鎖しました。今回の改修で70余年ぶりに開けたところ、貴重な図面を発見。本展では図面の複製が展示されています。
会場最後で紹介されているのが、東京ステーションホテル。クラシックホテルは登録有形文化財などに登録されているものも少なくありませんが、こちらは国の重要文化財。日本唯一の、宿泊できる国の重文でもあります。
東京駅丸の内駅舎も、辰野金吾による設計。ホテル設置については議論がありましたが、日露戦争勝利にともなう予算増もあり、駅開業の翌年(1915年)にオープンしました。
会場各所には、長年ホテル空間を演出してきた椅子やテーブルなど、家具の実物も展示されています。しかも全ての椅子には、実際に座る事が可能。貴重な品々ですので、くれぐれも気を付けてお座りください。
同時開催の展示室Bは、高山明/Port B「模型都市東京」展です。会場には12個のトランクルームが設置され、4カ月の会期中の変化も含めて鑑賞するという、とてもユニークな試み。展示室Bのみ、会期中何度でも再入場できます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年2月7日 ]